第三百七十七話
「さて、どうしたものかな」
イーノ・アッバーブを始末しようと思えばそれほど難しいことではないとアレンは判断していた。
ZZガンダムはどう見ても機動力重視ではなく、火力重視である。何よりサイコフレームが未搭載であり、最新鋭機には標準装備されているバイオセンサーぐらいしか搭載されていない。
つまり、せっかくの強化人間がパイロットであるにも関わらず、MSはオールドタイプ向けの機体のままなのだ。
それを見て取ったアレンはレナスなら10機、ストラティオティスなら3機、ストラティオティスIIなら1機で十分だと考えていた。
問題は——
「うーむ、ジュドー達に狩らせるのも成長させることができそうだが強要しては禍根を残すことになりかねない。これから狭い世界で生活していくのだからこういう致命的な問題は抱えたくない。だからといってプルシリーズに始末させてもやはり禍根ができる。となると捕まえることが無難だが捕まえた後に治療?ロザミア・バダムすらまだ完璧に治療仕切っていない上に、強化処理の傾向から察してロザミア・バダムとそう変わらないだろうことを考えると面倒なだけ……ハッ?!まさかアナハイムの狙いはこれか?!」
などと的はずれなことを考えているアレンだったが、悩みは真剣なものである。
今まで敵なら殺すか実験台にするか物資の無駄遣いだから逃がす程度の対処で済んでいた。
それはアレンの人間関係が敵か味方か商売相手か実験台ぐらいしか存在しなかったからなのだが、味方の仲間や家族の扱いは考えていなかった。
そもそもジュドー達を引き込んだ時は地球圏離脱を考えていなかった。だからイーノが敵として現れたり、施設を攻撃してうっかり殺してしまったりした場合は監視を行い、目に余るようなら追放などで対応する予定だった。
しかし、地球圏離脱を共にするとなると話は変わってくる。
ジュドー達は物理的に逃げる場所がなくなることでここで禍根を残せば精神を圧迫させ、ストレスとなる。
「問題は不平不満が潜在的に燻るなら私が察知することができるのでいいのだが、突発的に噴出した場合だと本人に自覚もなく、察知が難しい上に自暴自棄になられでもしたら被害が大きくなる可能性も……やはり捕虜一択か?」
地球圏離脱が決まってからは準備が忙しく、イーノの存在をすっかり忘れていたアレンは対処を考えていなかった。
アナハイムに強化処理を施されていることはジュドー達を引き入れた当時は予想こそしていたが現実のものになっているとは知らなかった。(存在を忘れていたのだから当然といえば当然)
ところでなぜアレンがこれほど渋っているのか疑問に思うことだろう。
それは天才であり鬼才であり約束は守るアレンでもロザミア・バダムの治療は面倒と言わしめるものだからだ。
「——というわけで抹殺しておこうと思うんだがどうだろう」
「じゃあよろしく……なんて言うとでも思ってんの!!」
アレンのあまりにぶっちゃけた発言にノリツッコミをしながらも烈火の如く怒り狂うエル・ビアンノ。
ミソロギアは隠し事、特に本人が関わる重要なことに関しては隠し事がないホワイトでアットホームな職場です。(関係ない場合は面倒なので省略することも多々ある)
「この禍々しい気配がイーノだって?!嘘だろ!」
「イーノ……お前……」
「ビーチャ!ジュドー!どうするんだよ!」
「イーノさん……」
言葉はそれぞれ違うが動揺するジュドー達。
アレンは対処が面倒になり、思考時間がもったいないとジュドー達本人に問題解決してもらうことにした。
「というわけでここで選択肢を与えよう。まず先程言った通り面倒なのでさっさと始末する」
「だからそんなこと——」
「エル!最後まで聞こう」
「冷静な判断だジュドー。エルはもう少し心を強く持て、そもそも私に怒りをぶつけても怯むことはないし、現実は変わらないことぐらいは理解しておけ」
アレンの不遜な態度にピクピクと怒りに震えるエルだったが、さすがに続けて失態を犯すことはなく黙って話を聞く。
「次に……お前達が自分で捕らえてくること」
「え」
「俺達が?!」
「マジで?!
「機体はキュベレイ・アルヒではさすがに厳しいだろうからキュベレイ・ストラティオティスを貸し出そう。ただし、私を始め、プルシリーズはイーノ・アッバーブの捕縛に関して一切関与しない。つまりたとえ戦闘で死にそうになったとしても助けん」
「それは……」
「まさかお前達の仲間を助けるために私の大事な家族を戦わせるのか?私の誘いを断った者のために?」
「……」