第三百七十八話
「私の見立てでは技量のみならお前達はイーノ・アッバーブを余裕で殺すことはできる」
「……」
エルが、だから殺すなんてしないって言ってんでしょ!という視線をアレンに向けるが当然それが何らかの効果を発揮することはない。
ちなみに
「生け捕りとなると……誰かが死ぬ確率は20%程度か」
80%で生存、20%で死亡。
これを上々とみるか、下々とみるのかは個人に差が生まれる。
実際アレンなら自分自身の確率でいうと悪いとみるし、上位ナンバーを失う確率なら五分、中位ナンバーなら少し良い、下位ナンバーなら悪くないとなる。
プルシリーズなら自身の生死なら100%の死でもアレンのためなら問題にもならない。
「さあ、どうする?」
さて、ジュドー達は自分の命はどの程度の価値を見出しているだろうか。そしてその失う可能性をどの程度に見積もっているだろうか。
そしてそのリアクションは3種類に分かれた。
肯定的なのはリスクを度外視して仲間を救おうとするビーチャ、最優先で守る存在が安全圏にいる以上仲間を救うことに否はないジュドー。
消極的肯定……平たく言うと迷っているのは、先程から怒気をぷんぷんと撒き散らしていたエルと臆病者であるが仲間は助けたいという男気との間で苦しむビーチャ。
そして唯一消極的否定を示したのがやはり唯一の非戦闘員であるリィナだ。
ただし、リィナは薄情なのではない。他の者達より覚悟が本物だっただけである。
勧誘を受ける際に、こうなる可能性はアレンに話されていた。
だからその未来を回避すべくリィナはミソロギアに所属する時、念入りにイーノを説得していたという経緯がある。
ジュドー達はストリートチルドレン一歩手前な状態で、これ以上不幸にならないだろうという不幸などん底にいるつもりになっている未熟な成人だったのだ。
それに比べ保護対象だったリィナは護られる者としての嗅覚がアレンの正直過ぎるところを疑わずに信じた。新たな保護者として適任だと判断したとも言える。
アレンの予言が現実となった今、リィナは20%もの確率で家族と仲間の誰かを失うぐらいならイーノを助けるのは諦めるべきかもしれないと思っている。
なにせアレンの言葉の裏も読んでいたからだ。
20%で誰かが死ぬというのは誰かという不特定で、誰か1人とも2人とも全員とも定めていないのだ。つまり全員が死んでしまう可能性もあるのだ。
「それに……お前達はこのまま戦いに参加せずにいるならこれからは微妙な立場になる可能性が高いぞ」
プルシリーズは全員総出で戦っている。
それがたとえコロニーで留守番しているプルシリーズでも同じだ。
そもそもプルシリーズは実験体でもあるが、最近の傾向としては労働力としての役割が増えている。
ジュドー達はクローンではない実験体としてのサンプルとしては確かに希少ではあるのだが、なにせ請われて雇われ、契約に守られているとはいえ、実験体、しかも肉体改造なし(通常のトレーニング的な意味ではあり)、精神負荷も少なく、プルシリーズから見れば随分と緩いそれは、生産業務(主にファッションデザイン)に携わるリィナやエル以外は立場が弱い。
この前、やっと殺し(ているように見えてアレンが治療しているが)を経験して多少は受け入れられたが今回の戦いは見学となっている以上、また溝が深まるのは間違いない。
この点もアレンは危惧してのジュドー達の出撃でもある。
ちょうど仲間を救うという命の張るきっかけができたので問題解決もしておこうというのだ。
そしてジュドー達の決断は——
「よし!バシッとイーノを助けてやろうぜ!」
「ああ、イーノを見捨てることなんてできないよな!」
ジュドーとビーチャがそう言ってしまえばモンドとエルは流されてしまい、賛成に傾いてしまうのは必然である。
自分と仲間達の命が本当に失われるかもしれないことを自覚もできないまま戦場に向かおうとしているとも知らずに。
しかし、それに対してアレンは口出ししない。しても無意味だから。
百聞は一見にしかず、いくら口で言ったところで実感できるものではない。相手がイーノだから殺されることがないと心の隅で思っていることがそれを示していた。
そして、唯一反対意見で真っ向から立ち向かうことができるリィナ……なのだが、残念ながら唯一の非戦闘員でもある。
自身が戦いに参加しないのに反対意見を述べるという行動に出ることができなかった。
そんな彼女ができることは——
「頑張ってね!絶対生きて返ってきてね!!」
これが今生の別れとなるかもしれないと理解し、涙が流れそうになるのを堪え、いつもの、いや、いつも以上の笑顔で未熟な戦士達が心置きなく戦えるように送り出すだけである。
「おう!行ってくる!」