第三百七十九話
少年達……いや、青年達は仲間を救うべくパイロットスーツに素早く着替え、勇ましくMSへと搭乗する。
「……ッ!」
ハッチを開き、現れたのはもちろんコクピットである。
日頃から乗るキュベレイ・アルヒと同じ作りになっているのだからいつもと変わらないものだ。
ただし、パイロット側の心情に違いがあり、いつもと変わらないそれに座ることに抵抗を覚える。
それは当然のことである。
今から戦場に赴こうとしているのだから。
ジュドーとビーチャは一つ武者震いをして意気揚々と操縦席に座るが、臆病者のモンドと日頃の強い発言とは裏腹に内面は慎重なエルは操縦席に座りはしたが震えは止まらなかった。
「フゥーーーーー……女は度胸。ここで生きていくにはこんなんじゃ駄目よね」
大きく息を吐き出し、心を立て直す。
「それに……いざとなったら私が……やる」
エルが怯えていたのは殺し合いの恐怖で、ではなく、いざとなったら——自分がイーノを残さなければならないだろうと覚悟をしていたから、だ。
ジュドーやビーチャは意地でもイーノを生け捕りにするつもりなのは感じていた。それがどれほど命を危険があろうと。
ジュドーとビーチャにとってイーノは親友にして人生の大半を共に戦ってきた戦友なのだ。
それに比べるとエルは多少距離があった。いや、距離というよりもやはり性別の違いは大きい。
男は意識せずとも女は守るものであるという意識がある。アレンですらそうなのだから間違いない。
だが、その距離があるからこそ——好きな人が殺されるぐらいならその前に……殺してしまおうという結論が出たのだ。
しかし、好きな人よりも優先順位が低いとはいえ、イーノも大事な仲間であることには変わりない。
そんな彼を殺さなければならないと思うと吐き気が止まらない。逃げ出したい気持ちが溢れ出てくる……が、それでも——
「やらなくちゃ、ね」
「エル」
通信機から流れてきたのは想い人の声が聞こえてくる。
「ジュドー、どうしたの」
「そんなに緊張するなって、俺達ならなんとかできるさ」
緊張しているのはあっているがその原因までは理解できていないジュドーにエルは、らしいわねーと思いつつ、その心遣いに惚れ直す。
だからこそ、死なせるわけにはいかない。
(例え、それで一生恨まれることになっても)
震える手は収まり、覚悟が決まる。
そしてそれに応えたかのようにキュベレイ・ストラティオティスの瞳に強い光が灯る。
「ええ、イーノを助けましょう」
ちなみにモンドにはビーチャが通信で励ましていたが、描写的にはカット。
理由はモンドはただただ臆病者がビーチャの言葉に乗せられて出撃しただけだからだ。
「ジュドー・アーシタ!出る!」
「ビーチャ・オーレグ!出るぞ!」
「エル・ビアンノ!出るよ!」
「モ、モンド・アガケ!で、出る」
それぞれの思いを胸にいざ出撃。
そして——
「消えろ!皆の敵は消えろ!消えてーーー!!」
そこに映し出されたのはZZガンダムが21連装ミサイルランチャー2基(つまり42発)を開放し、レナスがそれを蝶のように躱しつつビームライフで落とし、そして何機かは迎撃に失敗して火花へと変わる光景だった。
レナスが無人機であることをジュドー達も知っている。
だが、それでもイーノが放つ禍々しい殺意と無人機とは言え人型……しかも戦乙女と言った風貌の味方であるレナスを撃墜している姿を目の当たりにすると嫌な現実も自然と実感し、ジュドー達は唾を呑む。
しかし、アレンはそんな彼らをよそ目にその光景に別の関心を抱いていた。
「ほう、誘導兵器を復活させることに成功したのか」
背面に設置されたミサイルランチャーが前にいるレナスに向かって進むのを見て取れた。
「しかし、どうやって誘導しているのだろうな。1番可能性があるのは熱誘導だが、それでは敵味方を判別などできず巻き込むことに……ああ、だからあのガンダムタイプのみ突出しているのか」
そしてあれをレナス相手に使われたのは良かったとも思った。
万が一ジュドー達に使われていたら、それミサイル単体では落ちるまではいかなくとも致命的な隙ができてしまう可能性は高いと考えたからだ。
「それにあの妙な形のビームライフルはIフィールドを貫通するな」
百式の武装の1つであるメガ・バズーカ・ランチャーに匹敵するダブルビームライフルはキュベレイ・ストラティオティスのIフィールドでは防ぐことは不可能であると計測結果で出た。
そして同時にストラティオティスIIのハイパワーコンセプトのIフィールドバインダー4基装備なら防ぐことができるだろうという結論も出る。
「とりあえずジュドー達に伝えておくか……それにしてもなかなかに厳しい試練となりそうだな」