第三百八十話
ミソロギアのMSのコクピットは現在、1つの種類しか存在しない。
それはサイコミュコントローラーから発展した脳波による操縦である。
脳波による操縦は手を動かすなどよりもずっと反応速度が早いため、操縦桿などはパイロットへの負担が少ないようにリクライニングチェアとしての役割が主なほどだ。
しかし、この脳波操縦には最大の弱点、欠点が存在する。
それはパイロットの意思がMSに強く影響するという点である。
キュベレイシリーズに乗るプルシリーズは上位ナンバー、つまりアレンの訓練を十数年も受けた精鋭達であり、軍人としてもニュータイプとしても成熟している(人間としては未熟)ので問題はない。
だが、ジュドー達はまだ数年の訓練しか受けていない。
もちろんアレンが出撃を許可したのだから当然十分な戦闘を行えるものに仕上がっている。
問題があるとすれば、初陣にして敵は仲間であり親友、そして禍々しい思念を受けてその精神状態が安定していないことである。
それを示すかのように動揺によってキュベレイ・ストラティオティスIIの動きは訓練時と比べ、明らか緩慢で迷いが見えている。
つまりは軍人としての能力は備えても精神的未熟。
「あれー?皆がなんでここに?」
「イーノ!俺達のことがわかるか!」
イーノのまさかの反応に期待してしまうジュドー達。
しかし、現実はそんなに甘いものではない。むしろ苦さと辛さを併せ持つのが世の中というものだ。
「わかるよ。わかるに決まってるじゃないか……皆が!皆を殺したんだからさあぁ!」
意味不明な言動と共に止まっていたZZガンダムが動き出す。
躊躇なく銃口を向けて引き金を引く。
殺意を感じとったジュドー達は訓練の成果を発揮して避けることはできた。
しかし、やはり仲間だった存在から攻撃を受けるというのは精神に来るようで動きが鈍い。
だが——
「イーノ!てめぇは俺達が救ってやっからな!」
——それでも目指すのは仲間の助け出すこと。
それに揺らぎはない。
数の上では4対1と圧倒的有利、ただし、ジュドー達が乗るストラティオティスにはファンネルは搭載されていない。
ジュドー達はMSの操縦の技量は一定水準に達したがファンネル操るにはニュータイプ能力の質が向いていない上にまだまだ修練が足らず、使ったとしても同時に操れる数が少なかったりMS本体が止まったりしてしまうのだ。
ビームライフルすらもIフィールドを貫通してくるほどの威力とはアレンも予想していなかったが、間違いなくZZガンダムはストラティオティスへの有効打となり得る火力を保有していることがわかっていたのでファンネルを使用することはないと判断して下ろし、代わりに——
「いくぜ!」
「これなら遠慮なく撃てるしな!」
見た目はファンネルコンテナと変わりがないが、内容は変化している。
ストラティオティスの手に持つはアレン作にしてはやっつけ仕事感溢れるライフル、それは急遽用意された——
「これでも喰らえ!」
非殺傷兵器、トリモチライフル。
それがアレンが用意した兵器である。ファンネルコンテナの中身はこのトリモチライフルの弾、つまりトリモチがギッシリ詰まったものとなっている。
元々ストラティオティスはIIと違って武装は全て腕部や胸部などに内蔵されているため、マニピュレーターは空いているため、トリモチライフルを持たせたところでそれほど火力が落ちるわけではない。
ただし、トリモチライフルの弾は大きく、実弾であるためビームから比べると弾速は雲泥の差で、ジュドー達も実弾を使ったことがないことも相まって——
「何これ!!遊んでるつもりなの?!」
強化処置をされたイーノにとっては児戯に等しく、それらを躱していく。
「当たらねー?!」
「もっと接近しないと駄目ってことか!」
「えー?!これ以上近づくなんて無理だよー!」
「この距離で弱音はかない!行くよ!」
その戦いは本人達は真剣ではあるし、一歩間違えば死ぬのは間違いない。
だが、その武装のせいで遊んでいるようにしか見えないのは不憫な話である。