第三百八十一話
ジュドー達からすると真剣なのだろうが遊戯にしか見えない戦いをいつまでも眺めている場合でもないとアレンは意識を他に向ける。
戦局は刻一刻と変化している。
1番の変化は——
「来たか、待っていたぞ。アムロ、シャア……ついでにシロッコ」
——エース達の再登場である。
しかも——
「マウアー・ファラオ、レコア・ロンド、エマ・シーン……ああ、こっちは要注意人物のユウ・カジマにフィリップ・ヒューズ、サマナ・フュリス、更にはジャック・ベアード、アダム・スティングレイにマスター・P・レイヤー、マクシミリアン・バーガー、リディ・マーセナス……」
他にもエース級ばかりが集い、構成された部隊群がそこにはあった。
今までは良くも悪くも軍隊という型にはまった戦いを行っていた。それはミソロギアの戦力の見積もりが立っていなかった、立っていたが軍の規律上偏った運用はできなかった。
しかし、先制の核という単純な暴力だけではなく、組織としての戦力を魅せつけられた彼らは軍という括りでは苦戦は必死という事実が規律ではなく適応に傾けさせた結果がこの偏った編成である。
そして、その中にアレンの興味を引く存在がいた。
「あの強化人間、随分と安定しているな。イーノよりもこちらが欲しいな」
今までの強化処理を施された人間はニュータイプの覚醒、もしくは能力の向上と引き換え精神が不安定になるのは知っての通り。
だが、アレンが目をつけたその個体は今までみた強化人間の中ではいい出来だった。
その存在とはギュネイ・ガス。
「そちらの研究も上手くいっているようだな。ナナイ・ミゲル」
本来ならネオ・ジオンに属しているはずだったギュネイ・ガスであるが、元々ナナイ・ミゲルの検体であることから今はエゥーゴに所属している。
ちなみにアレンが興味を引くのがこのタイミングである理由は幾つかある。
強化人間は戦闘に入ると別人と言っていいほどの洗脳を受けていることが多い。そして戦闘時間が長引けば長引くほど本来の自分の感情と洗脳で持たされている感情の矛盾によってニュータイプとしての能力は著しく低下するものだが、ギュネイ・ガスはその傾向が見えず、その上ニュータイプ能力もアレンの基準でも最低ラインには掛かっている。
今までの強化人間はアレンのお眼鏡にかなったことがないのである意味快挙である。本人が嬉しいかどうかは別だが。
「しかし、せっかくの実験体になぜその機体を選んだ。ガンダムmk-Ⅴはオールドタイプ用だろう」
そう、ギュネイ・ガスが乗っているのはガンダムmk-Ⅴ……厳密に言えばガンダムmk-Ⅴから派生した機体である。
しかしガンダムmk-Ⅴはオールドタイプがファンネルを再現できるように開発されたインコムの実験機である。なら派生機であるこの機体も当然その影響を強く受けている。
実際、サイコミュは搭載されず、準サイコミュが搭載されている。
「どうせ予算が足りなかったのだろう……とは思うが、アムロ達の機体は随分と力を入れているがな」
アムロはプロトタイプを更に調整、強化したνガンダム。
シャアはナイチンゲール試作機であるサザビー(ただしカラーは百式にならって金ピカ)。
そしてシロッコだが——
「あまりこの戦局には向いているとは言い難いが致し方あるまい」
ジ・オIIよりも2回りほど大きく、カラーリングも純白の機体……タイタニアが並んだ。
ジ・オIIはその名前に反して対ミソロギアを想定して作られた機体であり、タイタニアは正式なジ・オの後継機である。
だからシロッコはタイタニアで出撃することがないことを祈っていたのだがその祈りは神によって却下された。
MSの質が多少落ちたが、それでも許容範囲内だとアレンは逃したのは正解だと満足していた。
「特に……くくく、良い気迫だな。アムロ。ニュータイプとしても随分と成長したようで嬉しく思う」
まだ出撃し、陣を整えている段階なので戦闘はしていない。にも関わらずアムロが乗るνガンダムからは緑と赤の粒子が漏れ出ている。
「しかし、あの状態ではプルシリーズには荷が重いか?」
発光現象を身にまとうというのはその出力次第だがIフィールドを上回るバリアを展開しているに等しい。
それを突破するには同じく発光現象を身にまとう必要があるのだ。
「となるともう1度ハマーンに——」
「私が出ます」
「む、プルツーか」
思いがけない声にアレンは驚いて問い直す。
「指揮はどうする」
「プル22に任せます。彼女なら問題ないかと」
「ふむ……プルツーの判断を信じよう。準備を急げ」
「ハッ!」
プルツーが現在乗るキュベレイ・エスティシスは既に専用機から外され、現在では指揮官機としての役割を担うことになっている。