第三百八十三話
「なんだぁ?最近はピカピカ光らせるのが流行ってんのか?」
味方……しかも連邦のエースとして名高いアムロ・レイが乗るνガンダムと敵であり、明らかに他とは違う特別仕様の機体が光っている。
それは取締現場ですら場違いで、戦場ならなおのこと場違いなそれを見て1人の男が冗談交じりに言う。
「フィリップ少尉!そんなこと言ってる場合じゃないですよ?!」
とサマナ・フュリスは諌めるが返ってきたのは軽口だった。
「そう慌てなさんなって、戦場では焦った奴から死んでいくってわかってるだろ。新米じゃあるまいし」
と返した日頃から陽気なフィリップ・ヒューズであったが——
(あー、嫌だ嫌だ。これってどう考えてもアレよりも危険な相手だよなー。正直サマナちゃんと一緒に動揺したいぐらいだ)
フィリップが思い描くのは今までの戦いで1番やばかった敵であるEXAMシステムを搭載していたイフリート改とブルーディスティニー2号機のことだ。
その強さは性能的なものもあったが、オールドタイプにもわかる異常な(マリオンの)プレッシャー(残身)が未だにフィリップの心に刻まれていた。
しかし、それを上回る存在が現れた。
(ちっ、あの時にさえ手が震えるなんてこたぁなかったってのによ)
自分達と敵の間にはまだ味方がいる。しかも周りは名の知れたパイロット達で構成されたドリームチームだ。更に言えば敵は1機で、そのサイズから戦略兵器や戦術兵器と言ったMSではない……はず。
先程まで通信手段が制限されている中で綺麗な陣形を整え、見事な連携を見せ、しかも自爆までしてしまう兵士がいる。にも関わらず単機で舐めているとしか思えない行動である。
震える操縦桿を握る手を離してグーパーして緊張を、恐怖を退けようと試みるが——
(全然効果がねぇな。幸いサマナちゃんに伝わってないってのが唯一の救いかねぇ)
自分が呑まれているのは自分の命に関わるが、それは自己責任で済む。でも自分の不安や恐怖で他人を殺してしまうようなことがあれば目覚めが悪いにも程がある。
そして、一応念の為にもう1人のチームメイトにも声を掛ける……それが自身の安定を求めての行動なのは本人すら自覚がない。
「よ〜う、ユウ、調子はどうだ」
「…………!」(いつも通りだ。問題ない。的なニュアンス)
「そうか、それならいい……だけど、今回の敵は倒すことより生き残ることを優先しろよ」
「……!」(なぜ。的なニュアンス)
「わかっているだろ。今回の敵は今までの敵とは違う」
「………………………ッ!」(それでも勝たなければならない。的なニュアンス)
「カーッ真面目なやっちゃな」
口では仕方ないやつだ、と言うフィリップだが、それでこそとも同時に思う。
気づけば彼の震えは止まっていた。
そして——
「この程度か、連邦の精鋭」
プルツーとエース部隊が接触。
「おいおい、洒落にならないぜ」
生まれた光景は名の知れたエースパイロットが為す術もなく8人も散っていく悪夢。
「なんだ。あの機動は……あんな急旋回をしてなぜ耐えられる」
最近のMSは既に対応策を施しても人間の耐えられる機動力ではなくなっている。
航空機の時代から既に難しかったのにMSはそれよりも厳しい急旋回を多用する。
ジェガンは一般的な兵士達が耐えられ、扱える最善のMSと言っても過言ではない。
そして一部の規格外達がガンダムタイプという高スペック機に乗るわけで、キュベレイ・ストラティオティスやIIもこれに類する。
しかし、キュベレイ・ハラクティラスの機動はそれらに当てはならない異常なものだった。
「くそ、どこへ動くのか全く予想できない?!」
キュベレイ・ハラクティラスは武装が少ない代わりにメインスラスターの数15基もあるという異常な機体である。
通常であればサブスラスター、つまり、方向を変えるためのスラスターはサブであり、出力はメインスラスターに及ばないものである。
しかし、キュベレイ・ハラクティラスはサブスラスターが存在せず、メインスラスターのみで姿勢制御など度外視、普通のパイロットでは耐えられないGに加えて揺れる機体でとても射撃など行えない代物なのだ。
しかし、実際に戦果を叩き出している要因は、サイコミュ制御であることとサイコミュクッションによるものだ。
ただし便宜上サイコミュクッションと表しているが、アレンが使うそれとは原理が違う。
アレンの使うものはミノフスキー粒子を操って機体内を満たすことでGを無効化するのに対してキュベレイ・ハラクティラスはサイコアーマーの副次効果でGを軽減しているのだ。