第三百八十四話
「あの光は何だ?!確実にビームは当たっているはずだろ!」
「くそ、なんて速さだ。実弾じゃ当てられない!」
残念ながら速過ぎるキュベレイ・ハラクティラスの動き、宇宙という非常に観測しづらい環境、そもそも見えない実弾という条件が重なれば当たっているかどうかなど彼程度ではわかるはずもない。
事実は弾は……バルカンやマシンガンは間違いなくキュベレイ・ハラクティラスに命中している。
ただし、その痕跡がまったくない、つまりダメージがないという意味では命中していないというのもあながち間違いではないかもしれない。
それは装甲材で防いだものではなく、サイコアーマーによって防がれたので機体には当たっていない。
サイコアーマーはビーム兵器もだが実弾兵器すらも防ぐことができる。
「サイコアーマー正機体損傷なし、ミノフスキー粒子拡散量、許容範囲。密度の維持、問題なし」
ただし、ビーム兵器とは違い、実弾に対しては完璧な防御力を有しているというわけではない。
実弾は質量が大きく、サイコアーマーで防いだ場合は纏っているミノフスキー粒子を拡散せてしまうのだ。
ただし、これを防ぐ手立てとしてキュベレイ・ハラクティラスにミノフスキー粒子発生装置を搭載させることで拡散したミノフスキー粒子は外部から収束させる必要がなくなりパイロットの負担を軽減している。
その反面、ミノフスキー粒子発生装置を搭載しているため核融合炉の出力は他のキュベレイシリーズよりも低出力になっている。そのため武装も少ない……が——
「この間合い。殺った」
キュベレイ・ハラクティラスの高速機動から逃れることができずにプルツーの接近を許してしまう。しかしその距離はビームサーベルの間合いからは遠く、ビームライフルやメガ粒子砲では近い、そんな距離に3機のMSが入った。
そして12個に分離した。
もちろん分離したのはそういう機能があるからではなく、プルツーによって12個に切り刻まれた結果である。ちなみに12分割にしたのはデモンストレーションであり、本当は最初の1撃でコクピットを両断されていて意味はない。
「いい切れ味だ」
このキュベレイ・ハラクティラスのメイン武装は先程述べたように核融合炉の出力が低いためビームやメガ粒子砲ではなく、正式名称テンタクル、アレンやプルシリーズなどは触手と呼んでいるそれである。
元々テンタクルはキュベレイシリーズやクィン・マンサシリーズに装備されていた。しかしそれは副武装、通常のMSで言うところのバルカンのような役割にあった。
だが、キュベレイ・ハラクティラスにとって大事な武装である。
なにせテンタクルはキュベレイ・ハラクティラスとは相性がいいのだ。
「やっと出てきたな。殺し合いに求めるべきではないとは思っているが歯ごたえがなくてデータ取りもおぼつかなくて困っていたところだった」
プルツーはやっと目的の3機が目の前に現れた。
「アレンはいったいどれだけ隠し玉があるのか……」
「神よ。これ以上の試練は遠慮願います」
シャアとシロッコは戦場ということもあって抜身の剣のように鋭い気配を放っているが、1人だけさらなる剣呑な、2人が名刀なら妖刀とも言える気配を放つ者がいた。
「随分と様変わりしたな。アムロ・レイ」
「……お前達は許さない」
「ふん、たかが死者のために人を殺すなんて傲慢な奴だ。それとも私はクローンだから人権なんてないか?まぁどれであっても私は興味ないが——主張と主張がぶつかりあえば、後は力で捻じ伏せる。それがお前達の常識だろう?」
それが戦闘開始の宣言となり、戦場が動き出す。
まずは定石通り、ビームライフルによる射撃から始まる。
ここで、プルツーは始めて回避行動を取る。
「お前の攻撃だけは注意しないといけないって父様が言っていたが……確かにその通りのようだな」
シャアやシロッコの攻撃はあえて受けるように動くプルツーだったが、アムロの攻撃だけは華麗に躱す。
一般人では見るどころか感じることすらもできないが、νガンダムが放つビームライフルは通常のMSから比べると変化していた。
それに気づいているのは狙われるプルツーのみであり、その変化を熟知しているのもプルツーのみであった。
なぜならキュベレイ・ハラクティラスのテンタクルにはその変化が起こっているからだ。
先程切り刻んだ時、テンタクルはシールドすらも貫通していたが、本来のテンタクルではさすがにシールドを貫通することはできない。
ならなぜできたかというともちろん発光現象のおかげである。