第三百八十五話
「やはりお前は別格だな。アムロ・レイ!」
「くっ!速すぎる!!」
キュベレイ・ハラクティラスが繰り出した攻撃は近距離、中近距離までしか確認できなかったことからアムロ達は距離を取り、周囲の機体と連携することができれば完封できるかもしれなと散開して対応した。だがここで計算外だったのは牽制程度にしかならないエース部隊のビームライフルや実弾が通じないのはまだしもアムロの攻撃は通じることからプルツーは回避する必要が生まれ、速度が落ちる――はずだったのだが――
「その程度でお父様が私のためだけに創り上げたキュベレイが止まるわけがないだろ!」
ビームを回避すれば本来はいくら効率の悪いバックしながらとはいえ、距離を離そうとしているアムロに追いつけるわけがない。しかし、プルツーは後退するアムロの速度を上回る。
アムロを始めとするエース部隊の射撃回避するためのGなど物ともしない切り返す姿は踊っているかのようで、それは黄泉へ誘う舞であるかのように。
「それに中距離戦が出来ないわけではない!行けっ!テンタクルッ!」
腰に巻き付いていたハートが連なってできたテンタクル(触手)が分解され、それがアムロ達を襲う。
「くっ、ファンネルより速い?!」
キュベレイ・ハラクティラスは他の機体と違い武装が少ないが故にテンタクルは特別仕様となっている。
元々テンタクルは、近中距離白兵戦用兵器である。連結状態であればヒートホークのように溶断したり、電流を流して鹵獲を狙うヒートロッドなどの使い方ができるが、分離状態であってはその攻撃力は本体による切断能力のみとなる。反面、ファンネルと違ってビーム兵器が搭載されていない分だけ機動性、運動性に特化している。
それに加えてキュベレイ・ハラクティラのテンタクルは他の機体のテンタクルよりも更に機動性、運動性を強化され、常人では目で追うことはできず、その枠を外れるものでも視認できたとしても回避できないようなものではなく、為す術もなく切り刻まれることだろう。
ではニュータイプにしてベテランの域をも超えるアムロはというと――
「ち、お父様が注視するだけあってやる」
「なんてでたらめな!」
互いに舌打ちを鳴らす。
通常サイコミュ兵器というのは自在に操っているように見えて、実際はパターンが用意されて操縦者の思い描くものに近いパターンを選択しているに過ぎない。そうでなければ操る数だけ、しかも高速で移動し続けて位置が動き続けるものに対して常時意識を割かなければならず、戦闘などとてもできるものではないからだ。更にはそのサイコミュ兵器が破損や破壊がされた場合には操縦者にフィードバックされ、最悪は精神崩壊もありえる。
もっともアレンが育てたプルシリーズがそんな軟なわけもないし、その中でも最高傑作と言っていいプルツーであり、その専用機であるキュベレイ・ハラクティラが普通と同じわけがない。
プルシリーズは数千のパターンを操り、プルツーが操るキュベレイ・ハラクティラのテンタクルに限っては行動パターンなど存在せず、今動かされている全てプルツーの意思の下、実弾より高速で飛び回る。
それにも関わらず――
「テンタクルを6割を使って装甲を割いた程度だとは」
「何なんだ、この動き。ファンネルにしては速すぎるぞ?!」
アムロが使う戦術であるファンネルから漏れる思念を読み取ってから回避するというのはテンタクルには通じない。なぜならその思念はを読み取る間にテンタクルの刃は高速で近づいてくるからだ。
それでも致命的なダメージを受けていないのは純粋なパイロットの技量である。
「―――――ッ!」
「ぐああっ!!」
しかし、アムロだから助かったのであって、エースと呼ばれる存在だからと言ってアムロ同様に回避できるというわけではなく、2つの火球が生み出された。
「さすがエース部隊。今ので2機しか落とせないなんて――お父様に捧げるには丁度いい!」