第三百八十六話
「やはりプルツー1人でエース部隊を抑えることは可能か」
今、私は世界を敵に回している。
だからこそ私が持てうる限りの技術で戦力を用意した。
しかし、結果は拍子抜けだ。
勝たなくとも負けては研究が続けられないため、負けないための策も色々手を打っていた。
しかし、連合軍は幾らかは予想を上回ることはあったがそれでもなおプルシリーズにも届いた様子はない。
特にエース級以外の存在は残念だ。
エース級が優れていることなどガトーやシャアなどでわかっていたことだ。しかし、その他のパイロット達の質がよろしくない。
元々、ティターンズ、エゥーゴ、ニューオーダーは派閥争いを、ジオンは語るまでも恨みがあり、アナハイムは私と同じ私兵に過ぎないと、本来連携が強みである正規軍が派閥争いによってその力を十全と発揮されていない。
「せっかく悪役を買って出たというのにつまらん奴らだ。こんなことなら隕石かコロニーを1つ落としておくべきだったか?」
本当の意味で世界の敵になればさすがにまとまる……はず。いや、どうだろうな。人間というのはどんな状態でもいがみ合うものだ。もちろん全ての人間が、などという極端なことを言うつもりはないがジオン公国にコロニーを落とされても権力闘争を繰り広げていたことから考えると望み薄か。
「しかし……本当にこのまま終わるのか?」
未来予測システムは今のところ自身が描く未来予想とほぼ変わりないのはわかっている。だが――
「私の勘がこれで終わらないと告げている。……さて、これはニュータイプとしてのものか、それとも本当にただの直感によるものか」
なにか見つからないかとモニターに映し出されている戦局を入念に見回す。
ニュータイプ研究をしている身として言うのはなんだが、直感などという曖昧なことに頼って方針を決めるのは不本意だ。ちなみに研究に関してのアイディアが思い浮かぶことは直感ではなく、ひらめきだから問題ない。
「む、全体的に前のめりになっている、か?直感が反応したのはこれか?」
戦闘そのものは一方的なものになり、前線が想定より前進してしまっている。戦局を見るとプルシリーズの未熟を攻めるのは酷だと感じた。
射程に入れば敵が瞬く間に蒸発してしまい、次の敵を求めて移動をすれば自然とこうなってしまうというだけの話だ。これでも何度も前線を維持しようと試みているというのも通信履歴によって確認している。つまり私達が強すぎただけだ。
だが、前線がミソロギアや艦隊から離れたことでなんらかの被害が出るなら未来予測システムでなくてもはっきりとした感覚でわかるはずだ。
「このラインまで前線を後退させ、このラインから先への進軍は禁止だ。指示は任せた」
『了解しました』
常に私とリンクしているプルツーの代理で指揮を執っているプル22に呼びかけるとすぐさま了承の返事が来て、戦場に変化が現れる。
担当エリアの殲滅を終えると敵を探し求めていたプルシリーズはまだ交戦中の味方のフォローに周って余裕を保たせて戦線の再構築を始めた。
敵はさすが正規軍というだけあって、その動きを敏感に察知して後退に遅れた者を袋叩きにして喰い殺さんと動くが、残念ながら連合軍とは違ってサイコミュ・リンク・システムによって既存の通信技術よりも優れている……感情まで伝えてしまったり、光景が衝撃的だったりするとそれを無意識に共有してしまったりというというデメリットもあるが……ため、後退に遅れて孤立するような者はおらず、被害は出ていない。そもそも遅れて孤立したならレナスで援護すればいいだけのことだ。まぁ戦いが終わった後にはそれ相応の特訓を科せるが。
「ふむ、やはり戦線が前のめりだったことが要因だったようだな」
ざわざわする予感がある程度収まったことに安堵すると共に、なにがそうさせるのか気になるところだった。
それに――
「残りのざわつきはジュドー達か?」
未だにガンダムタイプを操るイーノ・アッバーブを捕らえることができず、奮闘する様子のジュドー達をみてざわめく。
「任せるつもりだったが、戦線が安定したことで戦力に余裕もある早々に捕まえるべきか?」