第三百八十七話
「というわけで2分以内にそれを無力化して連れてくるように。そうでなければ任務失敗としてプルシリーズとレナスで対処する」
元々ジュドー達にイーノ・アッバーブの対処を任せたのは当人達が知り合いであることとプルシリーズのみが戦った場合、辺境へと移り住んだ時にただのお客さん扱いとなって居心地が悪いだろうと身内であると証明するために与えた任務だ。
後のことを考えればまだ任せておいた方がいい。しかし、危険ではないようだが不穏な気配を感じるので優先順位を変更することとした。
『なんで急に?!』
「反論するのは認めるが決定は覆らない。失敗が嫌なら早くしろ」
『わかった。イーノは俺達が救うんだ!』
さすがに実戦中に私と口論する気はないらしい。いい判断だ。
戦線の方は後退を指示したことで連合軍は部隊の立て直しを始めた……まぁ当然だろうな。こちらから仕掛けないのならあちらに時間を与えることになるのだから。
もっとも多少立て直しを行ったところで大きく変わるものではない。むしろ逆に戦闘が一区切りついたことで集中が途切れ、興奮状態が抜けて冷静さを取り戻せば――
「恐怖に囚われるのは当然のことだな」
当然のように隣りにいた仲間達が次々と消え、己の命があるのはたまたま狙われなかっただけという現実を目の前に恐怖しない者はいないだろう。
しかもプルシリーズが前線に立つようになってから撃破数は0なのだ。つまり無駄死にだと物語っているに等しい。
恐怖、悲しみ、恨みなどの負の感情が大量に流れてくる。
「しかし、プルシリーズの一部が精神的負荷で倒れたか……鍛え方が足りなかったといえばそれまでだが、この戦いを終えれば平穏な毎日だ。別の職に進ませるのもありか?」
などと余計なことを考えるぐらいには戦線が膠着した。
激しい戦いを繰り広げているのはプルツーとエース部隊ぐらいだろう。
プルツーが落としたアダム・スティングレイとハッキングして情報を得られなかったことから特殊部隊か何かだっただろう1人以外は――
「お、もう1人落としたか」
今のはジャック・ベアードか。彼はアダム・スティングレイとコンビだったな。相棒がやられて動揺した隙をプルツーが見逃さなかった。
まあジャック・ベアードにしろアダム・スティングレイにしろベテランとエースの間、準エースあたりだろうからこういうこともあるだろう。
「しかし、発光現象は攻防共に優れているのは間違いないが欠点があるな」
それはステルス性だ。
発光現象というだけあって光っているわけだが、それは逆に言えばせっかくの宇宙という広大な闇の中を煌々と光り輝いているということだ。単純に目立つ。故にキュベレイ・ハラクティラはともかくとして分離状態のテンタクルまでも目視しやすく、攻撃の軌道が読みやすくなっている。だからこそのこの少ない撃墜数のようだ。
ただし、言った通り攻防一体であるため、テンタクルが破壊されることは同じように発光状態であるアムロ以外にいない。そのためテンタクルの数が減らないというメリットもある。
あのテンタクルは特別性で、他のテンタクルは受信機と処理装置のみだが、キュベレイ・ハラクティラのテンタクルは内部が7割ほどサイコミュで占められている。テンタクル1つに積めるほどの小型サイコミュはかなり手間なので損傷率が低いのは助かる……もっともアムロにいくつか落とされてしまっているようだが。
「やはりまだまだ研究する余地があるな。せめて接触する際に発光する程度はできればいいんだが」
パイロットの感情によって引き起こされる発光現象はコントロールが難しい代物で私でも未だに発光を発生させる条件を整えることしかできていないのが現状だ。
「ん、本気を出せばできるじゃないか」
ジュドー達がイーノ・アッバーブをトリモチ弾で無力化に成功したようだ。
まぁジュドーとエルの機体が中破しているあたり、かなり無理をしたな。だが、そのかいもあって原因不明の不穏な気配が随分薄らいでいる。
それに新型を鹵獲できたのはいいな。辺境へ引っ込んだ後の暇つぶしができたな。コンセプト的には現行のキュベレイシリーズやクィン・マンサに類似している。何か参考になる――
「これは――」