第三百八十八話
戦場という盤面は変わらずアレン達ミソロギアが優位である。
にも関わらずアレンは――
「告げる!コード0を発令!繰り返すコード0を発令する!」
多少の焦りが混じりながらコード0を伝える思念波をミソロギア全軍に響き渡らせ、それを受けたハマーン達は揃って、そんな?!どういうことだ?!と驚きと共に混乱に陥ったが、再度強い思念波……いや、有無も言わさぬほどの思念波が発せられたことで慌ててそれに従う。
驚き混乱するのは無理もない。
コード0というのは絶対撤退命令。どんなに優勢であろうと劣勢であろうと射撃中だろうが鍔迫り合い中だろうが回避中だろうが防御中だろうが迎撃中だろうが本当に何よりも優先される全力撤退命令。
戦況は優勢……優勢というよりも連合軍の損害をみれば既に勝利していると断言できるほどの状態だ。
なのにコード0……絶対撤退命令、ただの撤退命令ならわかるが、明らかに戦況にそぐわない命令なのだからアレンからの命令とはいえ、混乱が生じるのも無理はない話である。
指示を出したアレンもアッティスを操り、急旋回してミソロギアに突っ込むような速度で進み始めた。
「ミソロギア内にいる者達に告げる。私がミソロギアに帰投後、マスタールームへと到着次第緊急旋回を行う。マニュアル通りの行動を取れ」
思念波が届き、ミソロギア内部が慌ただしく動き出す。
ミソロギアはコロニーであるのは今更説明するまでもないが、当然居住空間や生産施設などが内包されている。となるとそれが高速で、いや、高速でなくても旋回するとなると固定されていない物資や人間や動物が宙を舞って大惨事となる。
元々辺境へ移住する計画だったので一応準備はしていたが戦闘態勢だったり、急な変更であるため大騒ぎになっている。
そして、ミソロギアからアレンとすれ違うように撤退を支援すべく予備戦力と戦闘中に生産されたレナスとMDが通り過ぎていく。
撤退支援というよりも防御や回避など念頭に置かず、手近な敵を減らすべく相撃ち上等な戦いが繰り広げられる。それは正しく特攻と言ってもいい戦い方だ。
更にミソロギアやミサイル艦艇から続々とレナスが出撃し、撤退するプルシリーズはすれ違って、真っ直ぐ前線に突っ込んでいくのを見て改めて実感し、自身が乗るMSが世界最高峰であると疑いないがもっと速く、もっと早く家に、アレンのいる場所に帰りたいと願って操縦桿を握る。
アレンが撤退を指示するほどの危機というのはプルシリーズには天変地異に等しいものがあり、焦燥感が生まれていた。
「ちっ、プルツーが遅れているか」
さすがにアムロを筆頭としたエース部隊相手に真っすぐ帰還は容易ではないか、とアッティスを宇宙港に止めながら近隣で戦闘しているレナスを10機、全速力で向かわせた。
遠距離かつ大規模なMDを操るならコントロールルームでないと難しいが、10機程度で今の距離程度なら素のアレンでも操縦ができる。
「それに今のアムロはわかりやすいからな」
映像やセンサーなどなくてもわかるほどの存在感(ニュータイプに限る)を発するアムロだから捕捉は簡単だった。
「後3分しかないが……なんとか間に合うか。しかし、一体何があるというのか……」
「フッフッフッフ、ミソロギアなどというテロリストが如何に強かろうと、このソーラ・システムの前にはなんの意味もないわ!」
連邦の高級将校が高笑いを上げる。
そう、アレンが察知したのはソーラ・システムのことだったのだ。
なぜアレンがここまで察知に遅れたかというと――――
「しかし、上層部は本気なのか?人の意思を読み取ることができる人間がいるなどという戯言を真に受けて……まぁそのおかげでソーラ・システムの設置を完全自動化するという手柄を独占できるのだからいいのだがな」
クワトロやナナイはアレンの異常さをよく知っており、遠距離からの攻撃を察知し回避される……実際はネェル・アーガマによるコロニーレーザーに匹敵するハイパー・メガ粒子砲を回避するどころか受け止めて跳ね返してみせた……と考えてソーラ・システムの設置を自動化したことにより、察知されずに攻撃することにした。
相手がミソロギアであるため部隊を広く展開することもないため、輸送から設置までを護衛が必要ないというのもあって本当に現場には人が存在しない本当に全てが自動化されている。
ちなみにソーラ・システムではなく、ネェル・アーガマを自動化すれば良かったのではと思うかもしれないがネェル・アーガマを自動化したところでネェル・アーガマそのものが『兵器』であることから攻撃と察知される可能性があった。その点ソーラ・システムは多少改造されたものの『兵器』に転用されただけで普通の設備でしかないため察知されにくいだろうと予想され、実際されにくかった。
そして何より、ソーラ・システムはレーザー兵器であるため、ミソロギアで(意味不明なぐらい)多く実装されているIフィールドで防ぐことができないのだ。
「しかし、たかがテロリスト如きにあれほどの被害を出すとは軍の奴らも不甲斐ない。私が引導を渡してやろうではないか」