第三百九十一話
何度確認してもシステムに異常はない……いや、厳密にはミソロギアのサイコミュが65%ほどオーバーロードで不調を訴えているが、それとは関係ない時間合わせ用の標準電波を捉えることに影響はないのは確認したし、標準電波に狂いが生じた時に混乱を防ぐためのサブの標準電波も同じ時刻を示していることから察するに……私達は過去にいるか、もしくは0088年の標準電波が流れているほど地球から離れた遠い宇宙にいるかのどちらかだということになる。
「しかし0088?タイムトラベルにしても未来ならともかく過去か……これは色々楽しいことになりそうだ」
これは奇跡とも言える現象だ。しかし、奇跡というのは1度起これば奇跡ではなく、再現が可能な事象に過ぎない。
「それにもし0088年なら私の琴線に触れるような技術はそう多くないはず。そしてアクシズだろうとティターンズだろうとエゥーゴだろうとニューオーダーだろうと……いや、ニューオーダーはまだないか……が分裂しているのなら私達を脅かす敵などいない……と言いたいところだが」
慌てて外敵から身を守る必要があるのでMSのチェックをしてみた結果――
「実戦に耐えうるのはキュベレイ・ストラティオティスが10機とカミーユ専用機であるイータ、キュベレイ・アルヒ全機(20機)、パノプリア全機(30機)か。心許ないな」
本来ならこのぐらいの戦力でも戦えるが、ミソロギアを防衛するという観点から見ると万全とはいえない。
なんとか実戦に耐えうるだけでキュベレイ・ストラティオティスのサイコミュはあまり無理をさせたくないぐらいにはダメージがある。
他の機体は特に問題ないようだが……どうもサイコミュへの依存度が高い機体ほどダメージがあるようだ。その証拠にキュベレイ・ストラティオティスIIのサイコミュは全損、修理はできず、解体分解して部品取りか溶かして資源となるだろう。
もちろんプルツーのキュベレイ・ハラクティラもハマーンのクィン・マンサIIも稼働すらできない状況だ。
「アレン!無事?!」
「ああ、ハマーン。私は無事だ」
「いったいどうなっているの。連合軍もいないし、レナスだっていないわよね?」
「どうやら我々は過去にいるらしいぞ」
そう告げて時計を見るように促すと――
「時間が……え、じゃあ、この世界には別の私やアレンがいたりするのかしら」
「むっ」
それは思い至らなかった。
そうなると少々厄介なことになるな。私がもう1人いるとしたらそれは間違いなく最大の脅威だ。(世界にとっても)
……いや、2人で研究するというのも面白いかもしれない。新たなものが作り出せるだろう。ん?どうしたハマーン。背中がゾクッとした?元気ドリンコいるか?そうか、いらないか。
「急いでサイコミュを整える必要があるな。この時代の私が私と同等ならサイコミュさえあれば負けることはないはずだ」
「私だって負けない。過去の自分に負けるなんてありえない!」
ふんす!と両手を握って気合を入れるハマーン……見た目は私と合わせて(一体私が何歳に見えているのか甚だ疑問だが)10代後半にしているが、中身は3――
「アレン?」
「さて、私はサイコミュの製造に集中する。ハマーンはジャミトフと共にミソロギア内の統制してもらいたい」
「わかった。でも……後で何を考えてたのか教えてね?」
なかなかのプレッシャーだ。さすがハマーンだ。
「緊急を脱したらな。それにしてもハマーンは随分と過去に来てしまったことをすんなり受け入れたがなぜだ?」
「アレンならうっかりでそれぐらいやりそうだから」
「いや、さすがにそんなうっかりはやらないと思うが」