第四十話
ハマーンは新米摂政として忙しいはずだがプルが生まれてから来る頻度が増えた。
実はプルを気に入っているのか?確かに獣のように目を逸らしたら負け的なことや直接的にMSのシミュレータで模擬戦……本人達的には決闘らしい……をしたり遊んでいることが多いからその可能性は否定できない。
それにしてもプルは優秀だ。
普通の子供のように成長の過程を省くことで勝手に学ぶものがないせいなのか、本人の才能ゆえなのかはまだ分からないがとりあえず飲み込みが早い。
教えたことはほぼ全て1度で覚え、MSの操縦センスも悪くない。
もっともMSの模擬戦では経験の差でハマーンにボコられているがな。
そして負ける度に悔しくて泣くプルに仕方なく……そう、仕方なくイリア・パゾムの物より軽めではあるが同種のプロテインで身体能力の強化することを勧めた。
そして深夜には痛みで悲鳴を押し殺して呻き声となったものが聞こえてくる。
どうやら自分のために用意してくれたもので悲鳴を上げてはいけないと思って耐えている……まぁそのように誘導したのは私なのだが……プルの健気さに私のなけなしの良心が痛むが研究者としての本能には勝てなかった。
ただし、これを耐えてもハマーンに模擬戦で勝利できるかは別の話だが。
そういえばハマーンが摂政になったことで私のところに回されるスクラップが随分増えた。
やはり偉い人間と繋がりがあるというのは大きい。
そのおかげで今まで付けていなかったシミュレータにサイコミュ兵器の再現を可能にした。これによってハマーンとイリア・パゾムの戦いに大きな差が生まれた。
通常のMS戦なら6:4でハマーン有利であったのがビット……いや、スミレの新型ビット、通称S(ショート)ビットが使えるようになると9:1でハマーン圧勝となった。
イリア・パゾムがビットを使えないという不利があるにはあるが、やはり1番の難点は模擬戦でしかないため殺意がなく、Sビットの気配を察知することが難しいところだろう。
こればかりは解決策がない。
ちなみにプルはSビットを動かすことができる。当然ハマーンほど上手く操れないがな。
もっともこのサイコミュ兵器の再現で1番恩恵を受けているのは私なのは間違いない。
ハマーンとのビット対決では10:0で私の勝利、ただしMS戦闘を込みにすると9:1で負け越し(さすがにビットを躱しきれない)、イリア・パゾムにはMS戦闘で6:4で不利(ビットで物量戦)、プルにはMS戦闘で9:1で勝利(やはり経験の差)、という感じだ。
しかし、日頃訓練している彼女達だから負け越すのも遠くない未来のことだろう。
「パパ!パパ!」
大きな声をあげながら走り寄ってくるプル、これは別に緊急事態で呼びに来たという意味のある行動ではない。
「ぐほっ?!」
「パパ、パパ……スンスン」
ただただ甘えているだけなのだが……勢い良く抱きつかれるとまだ何とか耐えられているが例のプロテインのせいで急激に筋力がついているため、そう経たずに本格的なダメージを受けるようになる日がすぐに来るだろう。
しかし、まだプルは生後1ヶ月も経っていないのだから仕方ないと何とか割り切っているが……やはりプロテインの投入は早かったか?
「……」
「……」
「……」
そしてハマーン、イリア・パゾム、スミレのジト目……私は特に何もしていないが最近よくこのように見られることが多くなった。やはりプルの存在が気になるのだろうか。
最近、ハマーンとイリア・パゾムの2人から発せられる思念の受信精度が悪くなった気がする。
強い思い、感情が激しく波打つ時などはもちろん感じることができるのだが気になる程度のことはあまり察することができなくなった。
私のニュータイプ能力が落ちてしまったのかと思ったが、シャアやナタリー中尉の思念は察することができたのでおそらくそうではない。
どうやら共にいる時間が長い人間の微弱な思念は感じることに慣れてしまって鈍感になってしまっているようなのだ。
いらぬプライベートを知る必要がなくて助かるが、ニュータイプの研究という意味ではかなり難易度が上がってしまう。
何とかできないものか……。
シャアとナタリー中尉といえばナタリー中尉が妊娠したらしい。
もちろん父親はシャアだ。
これで落ち着いてパイロットとしてではなく、指揮官として専念してくれればハマーンの負担も減るのだろうが……さて、どうなるかな。