第四十一話
「ほう、これがノイエ・ジールを大破させたという連邦の最新型か」
今、私達は星の屑作戦のデータを精査している最中だ。
その中でも特筆すべきはやはりノイエ・ジールとそれを大破させたという機体だろう。
そしてその感想を一言で言うと……ガンダムか?だな。
そもそもこのレベルになるとMSではなく、MAだろう……いや、一応MSが中枢となっているのだから間違ってはいない……のか?このあたりの定義はどうなるのだろう。
それにしてもこのGP03デンドロビウムというものは連邦らしくないコンセプトだ。
GP01の次世代MSとしてビームライフルの対策を兼ねた高機動型やGP02のMSの戦略兵器化、もしくは一年戦争開戦時のザク(核弾頭装備のこと)を意識してのものなどは連邦らしいと言えるが物量戦が基本戦術である連邦がこれほど大型の兵器を開発するとは思いもしなかった。
大型兵器というのはその性質上、単機で戦局をひっくり返すために開発されるものであるが……これは一種の博打でしかない。
本来兵器とは消耗品、その消耗度合いは運に左右され、大きさによって維持費が掛かる。つまり、いつ落ちるかわからない大型兵器は不安定な兵器で、コストパフォーマンスの悪さから採用されることはない……はずだったんだがな。
「しかもIフィールド発生装置まで搭載されているとは恐れ入る」
小型の戦艦と言える重火力、既存のMSでは捕捉するのも難しい機動力、Iフィールドとルナ・チタニウム合金という戦艦顔負けの防御力……なかなかエグいものを作るな。
しかもIフィールド搭載機を相手に想定しているのか実弾兵器の充実している。そのためエースパイロットと言える技量を持つアナベル・ガトーが乗るノイエ・ジールを大破させることができたようだ。
「ノイエ・ジールにも実弾兵器がありますけど……これを見ると慰め程度にしかなりませんね」
スミレの言うとおりノイエ・ジールの実弾兵器は牽制には役に立っているが有効だとは言い難い程度の効果しか発揮していない。
「……む、Iフィールド発生装置を破壊することに成功したか……ならばなぜ負けた?」
今のところミサイルの被弾は何発かあるが戦闘に支障がでるほどの被害を受けていないノイエ・ジールとア……アレン・ジールの姿に首を傾げる。
ここからこの2機がやられるとはとても思えないのだが……味方の裏切り……このタイミングでか……いや、結局、ノイエ・ジール大破の原因はソロモンを焼いた兵器に巻き込まれてのものなのか。
と言うか、よく無事だったな。これがアレン・ジ—ルだったら耐えられなかっただろう。
それにしても味方を巻き込んでの照射とは相手もなかなか狂っているな。
その後は連邦の包囲網を照射に巻き込まれなかったアレン・ジ—ルと共に突破してアクシズ艦隊と合流を果たす……と。
「……一応ノイエ・ジールが負けたというわけではないのだな」
「そうみたいですね。しかし、ガトー少佐……中佐の技量なくして勝てたかというと……」
十中八九勝てなかっただろうな。
しかし、これの対策を行えと言われてもあまり有効な手段が思いつかない。
あの機動力とIフィールド、ルナ・チタニウム合金の防御力は厄介だ。実弾兵器は機動力とルナ・チタニウム合金で防がれ、ビーム兵器はIフィールドで防がれる。
強いて言うなら機雷に類似するものでも散布すれば対策になるだろうが、それをすると味方にも被害が及ぶ可能性が高い。
「……アレン博士……もしかしてこの機体、武器コンテナを積み替えるだけで補給が完了するんじゃ?」
「……」
さすがにこのサイズのコンテナを用意するには船に収まらないだろうから露出した状態で補給をしないといけない……はずだ。
……MA部分をいくつも用意しておくなんてことはさすがに連邦でも難しいはず……はずだよな?
「そういえばGP01、GP02のシステムエンジニアを捕虜にしたそうなので何かわかるかもしれませんよ」
「それは楽しみだ」
「……私専用兵器の開発、だと?」
「うむ、アレンの優れた……異常なニュータイプ能力を無駄にしておくほどアクシズに余裕はない。だからといって普通のMSで……それがサイコミュを搭載しているMSであろうとその能力を十全と発揮することができないだろう。だからこそ、アレン専用の兵器を自身で作り上げて欲しいのだ」
「私は研究者だが?」
「重々承知している。しかしそこを曲げてお願いしたい」
態度が不遜すぎてお願いされている気がしない。
「……コホン、それにプルがアレン以外の命令なんて聞くと思う?」
どうやら私の思っていることを察知したようで素のハマーンの話し方になる。
確かにプルをコントロールできるのは今のところ私だけだ。
本当は今からでも刷り込み作業を行うことができるのだが……使い潰されても困る。
「ふむ、プルと共に戦場、か」
プルのニュータイプ能力は優秀で、ビットも操れることからハマーンの専用機の予定であるキュベレイの予備パーツとしても使えるデチューンした機体に乗せるつもりでいる。
そんなプルが近くにいれば私達はそう簡単に負けることはないだろう。
……ふむ、クローン部隊を設立するのもいいな。
「ならば私専属のクローン部隊設立を許可するならやってみよう」
「……その部隊の予算は……」
「スクラップでいい」
「……わかったわ。じゃあそれでいいわ」
ふ、ふふふ、専属、クローン、部隊……いい響きだ。
「……私は選択を間違ったかもしれない」
「大丈夫、ハマーン様」
「イリア……」
「出会ったのが運の尽き」
「それは大丈夫じゃないわよ?!」
そうなるとキュベレイのデチューンだけでは面白くないな。
早速スミレと話し合わなければっ!