第四百話
「ネオ・ジオンの諸君。初めまして、私はミソロギアを率いるアレン・スミスという者だ。以後お見知りおきを」
突然グワンバンの全ディスプレイに映し出されたアレンがそう告げる。
もちろんグワンバン艦内は大混乱に陥った。
だが――
「落ち着け!」
ただの一声でブリッジは混乱の荒波から波風立たない凪へと変貌する。
「さすがはネオ・ジオン宰相ハマーン・カーン。見事な統率です」(前の世界のネオ・ジオンよりも反応がいいな。これはハマーン以外の求心力の有無の差か?)
「その統率を乱すことをやった者に褒められてもな。さて、私のことは知っているようだし、自己紹介は省くが、あいにくとこちらはミソロギアという組織もアレン・スミスという名も聞いたことがない」
「ふむ……ミソロギアはともかく、私を知らない、か。やはりこの世界は……っと、失礼。私達ミソロギアは中立コロニーにして技術者集団だ。我々の技術が優れているのはこの状況で理解していただけるだろう。もっとも技術者集団だからこそ外交や常識などというものには疎いのでそのあたりは了承してほしい。特に今回は先日のこともあって拗れる前に話をしたかったのだ」
「拗れる?」
「先日、我々のコロニーを占拠しようとネオ・ジオンの部隊、エンドラ級2隻と戦闘になったのだ」
「なに」
その話を聞いたハマーンの側近達は慌てて自身の下にある情報を精査し始めるが話はそのまま続く。
「幸いこちらは無傷で、全滅させた……いやこれでは言葉が悪いな。誰一人殺すことなく無傷で全員捕虜としたが、このままでは非のない我々が責められると思い、こうして挨拶をさせていただいた」
(無傷で全滅どころか全員が捕虜だと。事実なら厄介な勢力が現れたな。技術者集団と言っていたが……フラナガン機関や連邦のニュータイプ研究所のような存在なら排除せねば)
「戦闘データに関しては既にそちらへ送っているので詳細は後でみてもらおう。こちらとしては捕虜とエンドラ級の返還も応じる用意がある」
「ならば後日改めて今度はこちらから伺おう」
「では、我々の座標を渡しておこう。ああ、別に連邦などに流しても問題ないし、連邦でもネオ・ジオンでも攻めてくるというなら受けて立つので通信ではなく、軍を差し向けてもいい」
「随分と自信があるようだな」
「我々の自信の根拠は次回話すとしよう。ただし、再び戦火を望むなら戦死者なしなどという甘い対応はしないので覚悟はしておくといい」
「……よかろう。次の話し合いを楽しみにしておくとしよう」
「では、そちらも考える時間が必要だろうからこのあたりで失礼する」
ディスプレイからアレンの姿が消え、元の情報が映し出されたことが合図だったかのようにブリッジが騒がしくなった。
「送られてきたというデータを私の部屋へ回せ、明日までにそのデータを分析してレポートにして提出せよ。ここを任せる」
「ハッ!」
ハマーンはブリッジが出て自室へと移り、人払いをする。
「くっ……嫌な汗が止まらぬ。何者なのだ。満足に情報を引き出すこともできなかった」
別にアレンがプレッシャーを掛けていたわけではない。だが、ハマーンのニュータイプとしての勘がアレンの何かを感じ取ったことで緊張状態であった。しかし、ハマーンはそんな状態でもブリッジにいた兵士達に悟らせなかったのは指導者として優れている証とも言えた。
「我々が何者か、教えようか?」
誰も居ないはずの自室から声が響き渡る。
その声は間違いなく先程まで話していた相手、アレンのものであった。