第四百一話
「なっ?!曲者――」
ハマーンが声を上げようとする口を素早くガシッと押さえるアレン。
「おっと、せっかくこうして直々……厳密には違うが、穏便に済ませようと忍び込んで会いに来たのだから早々に騒がれたら困る。反応速度と対応は流石だと褒めておこう」
続いて懐から護身用の銃を取り出したもののアレンはそれを見もせずに手で払うように――銃を半ばから切断する。
「む、力加減を間違えたようだ。後ほど弁償しよう。顔の方は……大丈夫だな。さすがにここの設備では顔を粉砕などしては治すことが難しいから良かった」
その言葉には壊すのはいいが今は治すのが面倒という意図しか感じられず、ハマーンは緊張に固まる。
「さて、通信で挨拶した通り、私はアレン・スミスだ。というわけで先程言った次回の話し合いを始めようと思う」
誰が次回の話し合いが数分後だと思うのか、とハマーンは心の中でツッコんだ。
「では手を話しても騒ぎ立てずにいていただけるかな?」
念のためにというようにハマーンに告げると頷いて肯定したのを確認して手を離す。
「随分と無礼な話し合いがあったものだな」
「だから前もって言っておいただろう。外交や常識に疎い、と」
(言った本人まで含まれているとは思わんぞ。普通は)
「本題に……入る前に確認をしたい。本当に私やアレン・スミスを知らないんだな?」
「その(幼い)容貌と(何もしていないのに戦闘中かのような)気配なら1度でも面識があれば……いや、面識などなくとも近くにいればわかるであろう」
それだけの存在感を放つアレンが近くにいれば見過ごすことなどありえない。
「今の私の気配はアレン人形だから少し強く感じるだろうが……そうか、やはりこの世界では私はハマーンと関わっていないのか」
「アレン人形?それにこの世界、とは」
「まさか人間の手で銃が切断できるとは思っているのか。この身体は作り物で、ハマーン……閣下と呼ぶとしよう。ハマーン閣下にわかりやすく言えばこの身体はファンネルのようなものです」
「なんだと。ではサイコミュで動いているというのか」
アレンはそのとおりだと頷くが、ハマーンは信用できない様子だ。
それはそうだろう。自身がファンネルやサイコミュを使い、どういうものなのか十二分に知っているのだから。
「そして、この世界という意味は……正直、正気を疑われるので伝えるかどうか悩む所なのだが、伝えねば特定の人員が使いづらくなるため伝えることとした。端的に言えば、私達ミソロギアはこの世界の類似した未来からやってきた」
「……」
ハマーンは悩んだ。
戯言を抜かすな、騙すつもりか、反射的に口から漏れそうにはなった。しかし、ハマーンは目の前の人物がわざわざこのようなことをするような存在には思えず、常人なら切って捨てる話を、もしかしたらと拾ってしまった。
「……それを証明するものはあるのか」
「ほう、感情的にも理性的にも戯言と流されるかと思ったが……ハマーン閣下は優れた指導者だな」
「世辞はいい」
いや、うちのハマーンより指導者としては優れているぞ、と言いたかったがまだハマーン同士の顔合わせはどのような感情を引き起こすか未知数であるため、アレンは口に出さなかった。その代わりに――
「私達の世界にいたジャミトフ・ハイマン、カミーユ・ビタン、そしてイリア・パゾムがミソロギアに所属している」
「……ジャミトフ・ハイマンにカミーユ・ビダン、それにイリア・パゾムだと?!」
出てきた名前の統一性の無さとビッグネームと身近でよく知る名前が並んだことで驚きの声を上げる。