第四百二話
「その様子だとイリア・パゾムはネオ・ジオンに所属しているようだな。やはり近衛隊か?ああ、軍機だから答えなくていいが、少なくとも私達のいた世界ではそうだった」
「あれだけ派手にハッキングしておいて異なる世界から来たというなら未確認などということはないだろう?」
「いや、それがそうでもない。私達の世界のネオ・ジオンのセキュリティや情報管理システムは私が担っていたのだが、どうやらこの世界では違う者が担当しているようでデータを吸い出すには時間がかかっている」
「……私から言い出したことだが、そうも堂々と不正アクセスしていると言われると対応せずにはおれんのだが」
「フッ、私のハッキングを防ぐのは連邦でもできんのだから気にするな」
そうは言っても納得できるかどうかは別問題だが、今責めて立てても意味はないと堪えるハマーンを放置してアレンは続ける。
「もっともこの世界と私達の世界では歴史が細かく違い……いや、最近では細かくなどというレベルではない違いがあるようだがな。私達の世界ではアクシズはエゥーゴと手を組み、ティターンズと決戦を行ったが、結果はティターンズがジャミトフ・ハイマンとパプティマス・シロッコで割れ、勝ったのはアクシズとエゥーゴの連合軍だった。この時に私達ミソロギアは廃棄されていたコロニーを手に入れ、アクシズから独立し、ついでに組織運用のノウハウを手に入れるべくジャミトフを引き取り、カミーユは己の想い人を助けるために訪れ、イリア・パゾムはアクシズがマハラジャ・カーンの統率下だった頃からの検体だからな。この世界のイリア・パゾムと比べてみたいものだ」
「検体……やはりフラナガン機関かっ」
「言っても信じないだろうが……やはりこうすることの方が早いか?」
やはり人形であるためか、表情が薄いことから独り言のように聞こえ、そして次の瞬間には――
「こ、これは――」
「わかるな?同じ存在なのだから」
ニュータイプ同士の共鳴。
ハマーンは今までもシャアやカミーユ、シロッコなど共鳴を経験してきた。しかし――
「うっ……くっ!」
「こちらの世界のハマーンとあちらの世界のハマーンでは随分違いそうだが根は同じだろうから慎重にとなるべくそちらに踏み込まないようにしているが、その分だけ負担が増えているのか?」
いつもなら乱暴に叩きつけたり、プライバシー?それがなんだ、とばかり問答無用な共鳴(前者はプレッシャーか)を行っていたが、さすがに本当の意味で異世界に孤立した現在で敵を無差別に増やしたいわけではないアレンはアレンなりに珍しく配慮してなるべく自身を読み取らせるように共鳴したのだ。
しかし、所詮はアレン(非常識)なりの配慮である。
ただし、その思いやりは相手の思いがアレンに伝わらない。つまり一方通行なもので、一方通行の思いと言うのは大体において重いものなのだ。
「ふむ、辛そうなので1度止めるか」
「――ッ!ハァ……ハァ……ハァ……も、もう少し……ハァハァ……加減をしてもらえると助かるのだが」
「これでも相当加減しているのだが――」
「……人間をやめているのか」
「いや、至って普通の人間だが」
「普通という言葉の意味を話し合う必要があるな」
「む、ならもう1度共鳴を――」
「話し合うと言っているだろう!!」