第四百六話
「ツーン」
目の前でハマーンが訴えるように妙な声をあげながら顔を逸し、如何にも私は不機嫌です、と言わんばかりの態度だ。
視覚的に邪魔なので姿勢を変えて視界に入らないように頭を動かす――
「ツーン」
が、その逸した視線の先に回り込み、また奇妙な声をあげてるハマーン。
「ハァ……ハマーン。そろそろその面倒な悋気をどうにしかしろ。もう3日目だぞ」
「アレンが解消してくれないからよ!」
ハマーンの悋気の源は、私とこの世界のハマーンと親しくしていることによるものだということはわかっている。
だが、私はこの世界のハマーンに親しみという感情を抱いているつもりはない。ただ、身近の人物の同一体が存在するなど研究者として気になるのは正常な思考と言える。
しかし、そのことはハマーンも知っている。ミソロギア内ではコミュニケーションを取るために普通の会話もするが感情のやり取りを行うのに共鳴を行うことは常識の範疇だ。(だからオールドタイプのジャミトフやその部下などは苦労していたりするが)
だから当然今回のこともハマーンとは共鳴で伝えてあるのだが、それでもこれである。
ちなみにハマーンの最大の悋気ポイントはアレン人形を渡したことらしい。そして厄介なことにプルシリーズの一部……特に上位ナンバーの中に多く共感者がいる。
本物の私と接することが多いにも関わらず……というか私と関わりがある個体ほどその傾向が強い。
理由としては、私達も持ってないのにずるい、技術の流出良くない、ハマーン優遇良くないなどである。
アレン人形の技術が流出することはほぼない。もしなにかしようとした場合、私が察知できるし、そうでなくても最悪でも自爆することで機密は保てるようになっている……が、このことに関しては大体はプルシリーズの方便に過ぎない。本音はやはり自分達にアレン人形がもらえないからだろうが……等身大の人形を人数分も用意するとなると資源もスペースも必要になるし、私自身も全てを操るわけにはいかない。できないこともないが疲労がたまるし、何より研究時間を費やしてまでやることではない。
「全く、ハマーン。君が青春のやり直しをしているのは知っているが、元の成長した部分を捨てずに拾ってきなさい」
ハマーンは私の手によって若返ったことでネオ・ジオンに費やした時間を取り戻そうとしている。他の場所ならいい年した人間が青春などと呆れられたり馬鹿にしたりするかもしれないが、ミソロギアでそのように考える人間はいないので気兼ねはない……が、後々羞恥心に苛まれることになるだろう。
「とりあえず、この話は後にするとして、近い内にネオ・ジオンとコンタクトがとれることになった」
私がそう切り出すと、ハマーンは指揮官の表情を作り、キリッとした雰囲気を身に纏った。
「とうとう本格的に関与するのか」
「ああ、今回はMSとその技術の売買がメインだ。報酬として――ミソロギアと同型の廃棄されたコロニーがもらえることになっている」
「おお、2基目のコロニーか。それは忙しくなりそうだな。しかし、まだまだスペースに余裕があるのに必要があるのか?」
空き地がまだまだあるミソロギアに更にコロニーを増やそうということが不可解なようだ。
私の狙いはそう複雑なものではない。
「ツインコロニーレーザー……なかなかにロマンがあるだろ?」