第四百七話
ミソロギアにこの世界のハマーンが直々に訪れようと段取りを組んでいた時、またこの世界を変革を齎す一滴の雫が宇宙を零れ落ちる。
「ここは……何処だ?アクシズはどうなった。シャアは、他の皆は……」
「アムロ、聞こえるか」
「ああ、聞こえる」
先程まで生死を賭けた戦いを繰り広げ、自身の主張を重ねていた。
しかし、地球へ落下するアクシズを押し返そうなどという無謀な試みをνガンダム単機で遂行、そしてそれを肯定するように敵味方が入り乱れて協力し、アムロ単体だったサイコフレームの共鳴は他者と繋がって光が強くなり――次第にその光で視界が遮られ、終いには意識が混濁し――どれだけ経ったのかわからず、意識がはっきりして今に至る。
モニターに映し出されるのは平穏な宇宙空間。
アクシズはなく、あれだけ戦闘を行ったにも関わらず、爆発や撃破されたMSや戦艦などが一切ない。
むしろアムロとシャアの2人が幻でも見ていたという方が現実的とすら言える状況だ。
「ここは一時休戦といこうではないか。命あっての物種だ」
「言っていることは正しいが、貴様に言われると腹が立つ」
ただ、その申し入れを強く断れない理由がアムロにはあった。
現在搭乗しているνガンダムはアクシズの落下を阻止すべく、かなり無理をした影響であちらこちらに警告アラートが出ている。特に問題なのは押し返す際に全開にしたスラスターが融解してしまっているため満足に移動することができず、しかも推進剤もあまりない。宇宙でこれは致命的だ。
幸いなのはセンサーの類が無事、そして――
「あれはルナツー、か」
とりあえずはセンサーの範囲に有人施設があったことを喜ぶ……が、単純に喜ぶことはできなかったのも事実だ。
「なんでルナツーがこの位置にある。確か何ヶ月か先のはずだが」
「アムロ、私の気のせいかもしれないが星の位置がおかしい。どうやら我々が争っていた宙域ではないようだぞ」
「そのようだな。……冷静に見れば明らかに地球が遠いな」
「……正気を疑われるかもしれんが、こちらで妙なものを確認した。願わくばこちらの機器が壊れていて欲しいところだが……」
「一体どうした」
「そちらの時計を見てみろ。こちらと同じなら珍妙なものが見れるぞ」
「何を言って――0088?なぜ5年も前に?」
「そちらでも同じか」
「ということはそっちもなのか」
「ああ、これは夢か?それとも走馬灯というやつか?いや、神の悪戯か?なら神はなかなかに性格が悪いな」
「タイムトラベルなんて笑えないな。この時期だと確かお前は確か……」
「グリプス2で死んだことになっていた頃だな」
「ここが過去だとして、νガンダムを持ち込んでいいものだろうか」
「持っていくしかあるまい。そもそも我々が助かるのにこのガンダムを使わぬ手はないし、それに私の君は有名人だ。他人に成りすまして潜伏することもそう簡単にはできん以上はこちらに有利となる手札を減らすわけのは利口とは言えんな」