第四十二話
クローンの製造に要する時間は肉体年齢によって決まる。
ミネバ・ザビはまだ3歳だ。そのクローン体となるとあまり時間が掛からない。
というわけで推定3歳のクローン体を作ったわけだが……
「似ていないな」
「やはりそうか」
私もそう思っていた。
元々プルは5〜6歳の年齢だったため
プルには似ているがミネバ・ザビに似ていない。
「では、これは私がいただくぞ」
「後5体を作りプルとは違う容姿の個体ができなかったらクローンに関しての援助は打ち切る」
「……了解した」
ハマーンが厳しすぎる。
もう後100体ほど待ってもらえれば確実にできると思うのだが、研究の成果を急ぎ求めるのはクライアントの性だから仕方ないか。
まぁ実際問題としてミネバ・ザビがあまり成長した後だと言動や記憶の違いで付き人が気づく可能性があるから仕方ないか。
ただ、ミネバ・ザビに似ている、ではなく、プルと違う容姿という条件であるあたり優しさを感じるが。
「それで、この個体はどうするのだ」
「プルと同じぐらいまで成長させてそこからは姉妹として育てるつもりだ。情操教育というやつだな」
「……情操教育というなら手が空かないからと触手で構うのは止めるがいい。悪影響を及ぼす」
あまりプルと仲が良いわけではないのに気には掛けているのだな。
しかし、仕方なかろう。エロ触手も器用に動くがやはり私の手ほど器用に動くものではないため、仕事が立て込んでいる現状、ついつい私自身の手よりエロ触手を頼ってしまう。
「そういえばこの個体の名前は決めてあるのか?」
「………………プルツー」
「……本気か?」
「これから量産していくのだから名前は与えずナンバーとするつもりだ。それに名を与えることを褒美としようと思っている」
「なるほど、自身で名を勝ち取れ、というわけか……そういうのは嫌いではない」
本当か?あまり良しと思っている表情には見えんぞ。
もう少し説明しておくか。
「急成長をしたクローンというのは精神が未熟だ。未熟ゆえに最初はこちらの思惑通りに成長するだろう。しかし、成長するに従って個というものに執着を抱くようになるのは必定、ならば最初から希薄な個を与えておくより、手軽ながらも重みがある個を認識できる名前を取り上げておくことは互いのためになるはずだ」
「……そうだな」
まだ納得出来ないようだ……まぁ理解はできても納得できないことなんて数多くある。
私も戦場に立つことになった際に経験しているので気持ちはわかる。
「この手は指導者がよく使う手段だ。クローンという未熟な存在だから抵抗があるだけ、と納得しておけ」
「そう、だな」
<作者の余談>
ガンダムのキャラの名前は 名 = 姓 となっています。(カミーユ・ビダンだとビタン家のカミーユ)
そして殆どの場合【名】で呼ばれることになっています。
ただ、エルピー・プルに関しては原作通して【プル】と呼ばれているために名だと勘違いしていましたが【プル】は姓でした。
本来ならエルピーと呼ぶことがアレンとの関係上正しいですがエルピーと呼ぶことになると直感的にわかりにくくなりますのでプル、プルツー、プル3などで通していきたいと思います。
クローン3体目もプルシリーズ(容姿が似通っている個体の総称)であったが、4体目に傾向が違う個体……しかもミネバ・ザビと似た個体が生まれた。
思った以上に早い誕生に少し安堵した。
安堵したが……
「プルっ!アレンから離れろ!」
「いやー!アレンはあたしのよ!」
「…………うるさい」
……クローン体であっても女三人寄れば姦しいというのは変わりないらしい。
それにしても随分性格に差が生まれたものだな。
プルは明るく親しい者にはべったりの甘えん坊、プルツーは基本は冷静だが他者には攻撃的、プル3は他の2人と違って無口だが表情に思っていることがハッキリと出てわかりやすい、自己主張が弱いわけでもなく、言いたいことは短くまとめて言ったりもする。
個性豊かなのは結構なのだが……
「アレン!一緒に遊ぼ!」
「いや、私と訓練だ!」
「……本、読んで」
子供を3人も面倒見るのは大変なことなのだと最近知った。
世のお母さん方には頭が下がる思いだ。
「イリア」
さすがにずっと取り合っていては仕事にならないためイリアに対処を頼む。
ちなみに呼び方はイリア・パゾムからイリアに変えた。
ハマーンやナタリーからいい加減イリアの名前をフルネームで呼ぶのは止めるように言われたからだ。
本人もそのように希望していたから仕方なく変更することにした。
「了解、今日は私が遊ぶ」
「えー、イリアだとつまんない」
「イリアに不満があるわけではない。しかし私はアレンと——」
「……アレンがいい」
非難轟々だな。