第四百十二話
「ふむ、やはり組織が大きくなれば統率が難しくなると言うが、地球連邦も例外ではないか」
「そうだな。ティターンズを結成し、拡張期はまだ御すことができていたと思う。だが、組織の歪みというのは病と同じで目に見えない部分で進行しているものだ。私自身も、この世界の私もエゥーゴを生み出し、武装させてしまった段階で敗れるのは既定路線だったのだ。もっとも私自身が既に老いていて時間がなかったことが最大の要因だがね」
時間があったならもっとじっくり腰を据えて地球連邦の老害を排除することもできただろうが、と言ってため息を漏らす。
あの当時はまだ不老化処置は完成していなかったし、そもそも私はアクシズの所属だったのだから不老化処置ができていたとしても施すことは不可能だっただろう。主に私への信頼の無さで。
今はおそらくハマーン閣下の独断であろう協定が順調に結ばれ、エンドラ級やMS、捕虜などの引き渡しを行っている間にハマーン閣下とジャミトフ、こちらのハマーンの3人で雑談をしている。
主に組織のあり方や人の使い方、上に立つ者の振る舞い方、地球連邦の名家に多く共有する常識など帝王学をハマーン閣下に教え込んでいた。ちなみに私の指示ではなく、ハマーンも興味深げに聞いている。
どうやら情勢を分析した結果、エゥーゴの弱体とティターンズの壊滅、ティターンズに好き勝手されて穴だらけとなっている連邦軍と地球県全体が軍的空白地帯と化してしまったようでネオ・ジオンの軍事行動を止めることができず、そして知っての通り、ネオ・ジオンは地球征服を目論んでいる。
しかし、どう考えても失敗する可能性が高いそれを協定を結んだ以上は協力関係であるため少しでも成功率、もしくは少しでも損切りを上手くできるようにジャミトフは自身が学んだ帝王学をハマーン閣下へ施しているようだ。短い間にどれだけの効果があるかわからないが、無いよりはいいだろう。
ちなみにうちのハマーンは政という意味ではハマーン閣下に劣るだろう。なにせプルシリーズを派遣して思念を読み取り、都合が悪い人間は抹殺して政権を確立していたから本当の意味での政治とは言えないだろう。
さて、今回もネオ・ジオンと協力関係となったわけだが――チラッとハマーン達の会話を邪魔しないように、しかし警戒を緩めない親衛隊を視る。
親衛隊は厳選に厳選を重ねて集められた、精鋭にして忠誠高き存在……のはずだが、一部には不合格な者がいるようだ。忠誠度あたり、が。
どうもハマーン閣下のニュータイプ能力は戦闘にばかり特化しているようだな。元の世界でも同じだったがサイコミュを操り戦う者、それが大多数のニュータイプ定義であり、人間の進化の可能性ではなく、優れた兵器としての認識が強く、特に数に劣るジオンは覆すために質を求めていたのだから傾倒していて当然と言えば当然だが……あまりにもニュータイプ能力のコミュニティ能力が低い。
今のハマーン閣下ではオールドタイプ相手では感情が荒立っていないと読めないだろうし、自然発生型ニュータイプにはうっかり共鳴してしまって心を視られてしまうことになるぞ。
だからこそ、この程度の浅い反意の隠し方で親衛隊に在籍させているのだろうが……それとも泳がせて……いるわけでもなさそうだな。共鳴した感じでは……――わかったからそんなに睨むな。Wハマーン。
仕方ない、私もジャミトフを倣って勝率を上げておくとするか。
「ハマーン閣下にはこれを渡しておく」
「これは?」
「ハマーン閣下のニュータイプの訓練メニューだ」
せっかくの善意だというのにわかりやすく顰めっ面をするハマーン閣下。
よほどニュータイプの訓練に思うところがあるのだろう。まぁフラナガン機関系列ならそれも仕方なし。
「心配しなくてもアレンは嫌がるような訓練は入ってないと思うわよ。とりあえず見てみたら?」
ハマーンがフォローしてメニューを見るように促すと気が進まぬという表情を隠しもせずに見る。私のせいではないがせっかく用意したというのにここまでの態度をされるのは少し不愉快だ。
「…………?これが訓練、か?リハビリのような訓練内容が多いのだが」
「あながち間違いではないな。既にニュータイプとして覚醒している人間にとってニュータイプの感覚というのは日常生活活動の1つに過ぎない。だからこそその感覚を意識して鍛える必要があり、それをするにはリハビリのように動作そのものを行うために鍛える必要がある」