第四百十六話
「さて、まさかこのようなことが起こるとはな」
「遺伝子検査ではDNAは完全一致、クローンである可能性もあるが、あの機体……νガンダムと言ったか。あのようなものまで存在するとなると頭ごなしに否定するのも難しい」
「そのガンダムタイプですが、明らかに現行運用されているMSなどよりも高性能であることが確認されていますが、さすがアムロ・レイを名乗る人物が乗るだけのことはあってピーキーな性能で、とてもではありませんが一般兵士に使いこなせるものではないようですな」
「そうか、そのまま模造しても使えんのか。調子に乗っておるジオンの亡霊を叩き潰すのにちょうどいいと景気付けになると思ったのだがな」
「しかしエゥーゴもティターンズも忌々しい。好き勝手暴れまわり、結局1番被害を受けたのは我々で、1番得をしたのはジオンではないか」
「然り然り」
「いやいや、1番得をしておるのはルナリアン共でしょう」
「そうだな。未来でも随分活躍しているようだからな」
未来からやってきたというνガンダムを解析した結果、アナハイム製であることがわかったことに対しての皮肉である。
「開発部としてはνガンダムに使われているサイコフレームなるものの解析を進めると同時にνガンダムのデーターベースにあった次世代量産型MSとされるジェガンの開発を急がせます」
「良いだろう。それに加えてそのサイコフレームを取り除いたものでいいのでνガンダムをもう1機用意しろ。せっかく白い悪魔が2人もいるのだ。使わぬのは勿体なかろう」
「しかしアムロ・レイは信用できますかな。ニュータイプなどというオカルトな存在ですが」
「儂にはさっぱりわからんが一応はニュータイプも随分解明されてきてはいるようだぞ。だからこそサイコミュなんてもんがあるんじゃろ」
「そのサイコミュで過去へタイムスリップできる可能性が高いとなると解明できていないと同義かと」
「違いないな」
「タイムスリップなど物語の中だけの話だと思っていたのだがね」
「だが、タイムスリップというのは違うのではないか。アムロ・レイが2人この世界にいて、未来のアムロ・レイの世界にはいなかった。つまり過去ではなく――」
「平行世界というやつか。まぁそれなら遠慮なくそれを利用しても過去を変えても我々が消える……なんてことはない」
「まさか……平行世界への侵略を?」
「侵略とは人聞きが悪い。しかし新たなフロンティアには違いないであろう」
「まずは往来ができるようになってから考えましょうよ」
汚い欲望に塗れた会話が部屋を包む。
まさに取らぬ狸の皮算用ではあるが、宇宙開発を着手した時代は宇宙に夢があり、フロンティアだと思い描いていたが現実は厳しく、実際に宇宙開発は膨大な投資が必要で、リターンは小さい。だからこそ棄民先に選んだ。
その結果ジオン公国が生まれて大損害を被り、今なおそれは続いているに等しい現状で、新たなフロンティアの出現は期待してしまうのも無理はない。
「となれば経済の立て直しもですが軍備拡張も水面下で行いますか」
「当面はジオン残党はしばらく煽てて時間を稼ぎですがな」
こうして静かに、しかし大きく歴史が変わっていく。