第四百十九話
「なあ、アレン。今回起こった時渡りだっけ、それを再現するつもりなんだよな」
「無論だ」
そんな当たり前の質問をしてくるカミーユに疑問を抱きながら返事をする。
「それで少し考えたんだが、今回俺達が渡ってきた時の座標が前の世界にいた場所とこの世界に来た時の座標は全く違った。ということはひょっとするともしかすると時渡りで大気圏内に転移する可能性もあるんじゃないか」
「ふむ、十分ありえるな。……もしかして時渡りの際に絶対してはいけない場所というのが感覚的にわかったが、あれはもしかすると惑星の中だったのかもしれない」
リアルいしのなかにいるは勘弁願う。
だが、いしのなかにいる、はその瞬間から命の危機だから感覚的にわかって避けることができるかもしれないが、大気圏内に時渡りで出現した場合、落下して結果的に危ないだけなのでひょっとしたら私の勘が反応しない可能性がある。
「だから次の時渡りは慎重に――」
「ミソロギアを大気圏内でも飛べる、最低でも浮遊できるようにするべきだと……うん、なかなかいい着眼点だ。近い内にボーナスを用意しよう」
「…………」
カミーユへのボーナスはファ達への贈り物でいいだろう。だが、金など渡しても現在のミソロギアでは使う用途が限られているし……無難に装飾品、はさすがに異性の他人が贈るのはまずいか。なら原石を用意してデザインと加工はプル達に任せるか。原石は無駄に在庫があるペリドットあたりにするか。
「それにしてもどう対処したものか……」
最初に思い浮かぶのはミノフスキー・クラフトだが、さすがにコロニーを1基……いや、新しいコロニーと接合させるので2基分も浮かせるとなるとかなり濃密なミノフスキー粒子を散布する必要がある。
現行の技術では400m届かない戦艦程度しか大気圏内で浮遊させることができないはずだ。まぁその程度でしかない理由はミノフスキー・クラフトを利用すると自然とミノフスキー粒子が散布され、高速通信が行えないデメリットが存在するから開発が遅れている……いや、方向性の違いか。確か小型化して空中戦を想定したMSを開発していたな。何でもMSにしたらいいというものではないと思うが。
1番の問題点はどう出現するのかわからないことだ。せめて地面に接する場所がわかっていれば大量に核パルスエンジンも付けておけばいいが。
「そういえばキュベレイシリーズは地上運用をしたことがなかったな。一応スペック上は問題ないはずだが」
大気圏内での戦闘は想定しかしていない。
そうか……この世界の最先端技術は私達のものであると自負しているし、多少解析されたところで追い越すことなどありえない。
となると私達が、私が行うべきは――
「さらなる深海に潜るのもいいが、泳ぐのもいいだろう」
次の時渡りに向けて得ておくべき技術が多い。
大気圏内での機動兵器はもちろんのこと、未来に時渡りをしてビーム兵器が通じないことを想定した実弾兵器やレーザー兵器、時間と手間と資源が掛かる冶金技術、前の世界で見た一部戦艦が使っていたビームシールドも奴らが開発できて私ができない道理はないだろう。
クローン技術に関しては研究こそするが主力であるプルシリーズとの対人関係の複雑化によって組織崩壊もありえるため、プルシリーズの多様化を主軸としていくつもりだ。
ただ、前の世界で辺境に旅立った後に予定していた新たな感覚器官の開発もしたいが……こちらは暇つぶし程度でいいか。
「まずはプル達を無駄に消耗するのも面倒だからとりあえずレナスを大気圏用に調整して……ハマーン閣下の地球征服の手伝いでもするかな。だが、大気圏に降りてしまえば脱出が面倒か……大気圏外から大気圏内のレナスを操縦できるかどうか試してみるか。私でも大気圏内は生物が多くて面倒だからプル達には難しいかもしれないが……そういえば、大気圏内にミソロギアが出てしまった場合、大気圏外にどうやって脱出させようか?」
(俺は余計なことを言ってしまったような?)