第四百三十話
<ジャミトフ>
「予定軌道に到達。到着時間、ぴったりです」
「電子、ニュータイプ索敵に異常なし」
「MS部隊は半数がコクピットで待機中」
「MDパイロットは全員コクピットカプセルで待機中、バイタル正常。サイコミュも順調に稼働中」
「MD用はもちろんだが母艦用のサイコミュも新型ゆえチェックを怠るな」
「承知しております」
本当にミソロギアは怖い組織だ。
いや、厳密にはアレンか。
道徳を軽視するそれらのことではないぞ。そんなものは連邦の中層以上に成りたいというなら捨てて当然のことだ。
なら何が怖いか。
それは新技術を次々と実戦投入していくことだ。
新技術など実験を積み重ねて信用を作り上げても実戦では仮初の信用でしかなかったことなどいくらでもある。
そんな事はアレンは重々承知で次々と新技術を投入する。
そして今回はミソロギアの根幹であるサイコミュを気軽に新型に切り替えるなど常識以前に本能的にやらない。
いくらMDを宇宙から操縦するのに必要なこととはいえ、思い切りが良すぎる。
いや、それでもコクピットカプセルのサイコミュだけ新型にするなら最悪、パイロットとMDを失うだけなのでわからなくはないが、母艦級やキュベレイ・ストラティオティスにまで使わなくともいいと思うのだが……何らかの支障をきたせば半身不随どころの話ではないぞ。
一応アレン自身も頻繁にサイコミュを監視しているそうだが……もしや不調をきたした場合、遠隔から調整するつもりだろうか。
「アレン、ハマーン閣下からは予定変更はないか」
アレン人形に話しかけるとしばし時が空き――
「確認を取った。変更はない。行動を開始せよ」
「わかった。ではジオン残党掃討を始める」
私が再びジオン残党を相手にすることになるとはなんとも皮肉な話だ。
ハマーン閣下……この世界のハマーンはこの呼称と定められた……からの依頼はネオ・ジオンの指揮下に入らないどころか敵対的なジオン残党、そしてその残党はなんと一年戦争から続くキシリア派だという。
キシリア・ザビはこの世界でも戦死しているはずだが、まさか影武者か?ありえる話ではあるな。あの奇異な出で立ちからして影武者を用意するためのものであっても不思議ではないな。
それにしてもハマーン閣下は我々を暗部として運用するつもりなのだが、口封じが難しい暗部というのは使い勝手が悪いことを知っているのだろうか。
「護衛にキュベレイ・ストラティオティスの10機とシルメリア全機出撃させよ。製造班は次のシルメリアの製造を始めるように」
シルメリアは大気圏離脱能力そのものは有していないが、後ほど透過するブースターを装着することで離脱が可能となってはいるが、今回は初投入だ。被害を想定して予備のシルメリアを製造がされる。
これだけの艦隊がこの人数で、しかも戦闘そのものはノーリスクで行えるとは今更ではあるが敵に回したくない組織だな。もっとも味方なのだから心強いものであるが。