第四百三十一話
「シルメリア全機大気圏突入開始」
「突入コース、予定通り。目的地に向かっています」
「全機装甲温度上昇を確認。冷却装置稼働。正常値を示しています」
「パイロットのバイタルも異常なし」
「サイコミュも問題ありません」
「では、未来予測システムを集中運用させよ」
「了解」
ジャミトフの指示に従いプルシリーズは未来予測システム担当に通達を出すと彼女達はコクピットカプセルと似たカプセルの中で意識をシルメリア隊が向かう目的地に集中さて未来を手繰り寄せる。
未来予測システムは完璧ではなく、1人では曖昧な未来しか予測できず、物理距離が離れれば更に精度が落ちてしまうため、複数人の未来図を合わせて確かな情報へと練り上げる。
「総帥の観測と情報分析通り標的に有効な対空手段は確認できません」
敵はジオン残党である以上表立って活動しているわけもなく、有力な後ろ盾がある残党は少ない。つまり一年戦争当時の戦力がそのままあるいは劣化したものでしかない。
そうなると可変MSなどあるはずもなく、戦闘機は潜んでいる残党には滑走路が必要なため使い勝手が悪く、使い勝手がいい航空戦力である戦闘ヘリはそもそもMSの相手にならず、当然SFSなどというグリプス戦役で一般化された兵器があるわけもない。オーソドックスな対空ミサイルなどはミノフスキー粒子で追尾が効かず、旧暦の世界大戦当時の高射砲とそう変わりなく、数を揃えなければ効果がある対策ではない。つまり、残党である時点で高が知れている。
「敵戦力はザクIIJ型を改造したものが2機、ハイザック1機、ドム1機以上――いえ、近くの川にズゴックE1機とザク・マリンタイプ2機が潜んでいます」
「ハマーン閣下からもらった情報よりも随分と大所帯だな。最近合流したのか、それともネオ・ジオンの情報網がその程度なのかは後々精査するとして、問題は」
「ありません。私達が負けるわけがない」
「私心は未来予測システムを不安定にさせる。気をつけよ」
「申し訳ありません」
未来予測システムは観測者側が願望を抱けば抱くほど精度が落ちてしまう。そして問題は、これがオールドタイプなら言葉や表情だけを取り繕えばいいが、ニュータイプとなるとその感情が伝わってしまう。物理的距離が近ければなおさらだ。
故に未来予測システムの使用中は特に気をつけないとならない。
ジャミトフが注意をすると素直に謝るプルシリーズだが、決戦参加者だったのにも関わらずこの始末で、自身の命を掛けない戦いでは兵士として成熟は難しいという証明とも言えた。
「大気圏突破を確認」
「シルメリア全機異常なし。ただし予測通りですがレスポンスが5%低下しています。これからは下がる一方ですので注意してください」
「迎撃は……ありません」
「連邦は動かず、か。これが本格的に和平を検討しているというならいいが……」
本来40機ものMSが大気圏突入したならミノフスキー粒子すら散布していないのだから通常ならミサイルによる歓迎会が催される事態である。
それがないということは連邦がミソロギアの軍事行動を認めた、黙認したということになり、それはネオ・ジオンに配慮している……と見えなくもない。