第四百三十六話
ハマーン閣下は順調に地球で連邦やティターンズ残党を取り込んでいるようだ。
ティターンズは最初、治安維持部隊……つまりジオン残党狩るために組織された存在だが、取り込んで大丈夫なのか?まぁハマーン閣下の政治的手腕の見せ所か。
ついでに地球支配が上手くいかなかった場合……まぁ私達としては支配できないことが既定路線だが……を考慮して母艦級を2隻建造中とMD艦だ。
当初の予定では初回である今回の作戦は例外として、しばらくは母艦級1隻とMD艦10隻を1個艦隊として運用するはずだった。
だからこそ本来なら2個艦隊で運用できる最大数80機ではなく1個艦隊の最大数の40機しか出さなかったのだ。
しかし、思った以上に大気圏内は難所であり、シルメリアンも戦力としては心許ないことがわかったため2個艦隊で運用することとした。
いくらキュベレイシリーズは当然としてレナスよりも安価に仕上げられているシルメリアとはいえ、あまりロストしては痛い出費となる。
つまり、今度からは最大数の80機を投入することでリスクを軽減される。
バンカーバスターの改良も進んで想定の5割に達した。初回使用時は想定の3割だったことを考えればそれなりに改善したと言え、私が求めるボーダーラインを満たしたのでもう少しマシになるかもしれない……ただし地下に潜んでいた残党は1度目だけで実戦に投入はできていないため未知数だが
ただ、ネオ・ジオンからの援軍要請や前の世界のジュドー達のように引き抜きたい(拉致)場合などミソロギアに常駐する派遣戦力がいないというは不便で2個艦隊を宇宙戦仕様で整えることにしたわけだ。交代させることもできるようにしておいて損はない。
それに、最初の2隻は設計ができた勢いで私直々に建造したが、今回の2隻は全てプルシリーズに任せてあるので手間は増えていない。どちらかというとプルシリーズを600人追加で生産したことの方が手間が増えている。
しばらくはプルシリーズを増やす予定はなかったが、万が一母艦級1隻沈んでしまった場合、定数で300人が一瞬にしてロストしてしまう。
現在のプルシリーズは2800人ということは10.7%を失うことになる。2隻だと21.4%にもなる。そして建造中の2隻をも合わせると42.8%となるわけだ。
そうでなくとも艦隊がフル稼働させるとミソロギアには1600人しか残らず、防衛が薄くなってしまうための補充だ。(過剰防衛気味にしても過ぎたる戦力なのだがアレンは見て見ぬ振りをする)
というわけで600人もの新人教育でミソロギアはいつもよりも賑やかで――
「――ん?妙に気合の入った気配を感じるが――これはハマーン閣下に付けてあるアレン人形経由で感じるということはハマーン閣下、ではないな。気質が違う。強いて言えばジュドー・アーシタが近い……いや、本人か」
アクシズに侵入を許したことといい、滞在先に侵入されていることといい、ネオ・ジオンがザルなのかジュドー・アーシタの潜入が巧みなのかどちらなのか。
「とりあえず様子を見に行くとしよう」
「寄るな!来るな!――――――やめろ!」
「全く。この程度のプレッシャーで怯えるとは……なっていないな。ハマーン閣下。ちゃんと訓練しているのか」
現場に到着するとジュドーの放つプレッシャーでハマーン閣下が錯乱状態に陥っていた。
私の共鳴から比べれば大したことは――いや、改めて考えると一般的なニュータイプのそれとは違い私のは記憶の共有に近く、感情は排している。
それに今放っているジュドーのプレッシャーは前の世界のアムロ・レイが放ったあのララァを具現化したものに次ぐものに感じる。
私でなければこれぐらいでも精神的負担が大きいのかもしれない。
「誰だ!」
「ア、アレン」
「ふむ……事態は大体把握したが、お前はジュドー・アーシタでいいんだな?」
「そ、そうだ」
本当に念のために確認してみたが素直に答える。面倒がなくて助かる。
「ふむ」
これはこれは……若い頃の方がニュータイプの覚醒率や成長率が高いというのはデータとして出ていたが、あくまで統計的にそうであるだけだ。
なぜなら時を戻して若返らせることができるわけではない。つまり数を用意して傾向を探るのだが……まさかその不可能な証明が眼の前で成されるとは。
うちのハマーンとハマーン閣下は両者共にそれなりの年齢であり、成長率は既に低下傾向にあるし、何より私という存在がいないためにフラナガン機関系の訓練を受けているハマーン閣下ではあまりに違う存在過ぎた。
それに比べ、目の前にいるジュドー・アーシタはニュータイプの訓練どころかパイロットとしての訓練すらも受けているか怪しい程度でありながらミソロギアにいるジュドー・アーシタと比べるとニュータイプとして成長しているのがはっきりと分かる。
つまり、少なくとも成長率においては若い方が高いことが立証されたようなものだ。
更には――
「ではその負傷しているのはリィナ・アーシタか」
リィナ・アーシタまでもニュータイプとして覚醒しているようだ。
もっとも――
「まだ命に別条はないが、そのままでは危なそうだがいいのか」
「ッリィナ」
ふっ、やはり経験不足か。この程度で己を守っていたプレッシャーがなくなるとは……敵地でそれを解けば取り押さえるのも難しくはないというのに。
「こっちから銃声が――ぐへっ」
「ここで他者は面倒だ」
アレン人形唯一の武装であるテンタクルを操り、駆けつけた兵士を絞め落とす。
「な、なんだそれは」
「詳細は省くが簡単に言えばファンネルだ」
「ファンネル……だと?」
ハマーン閣下が顔を顰めている……どうやら少しは調子を取り戻したようだ。