第四百三十七話
「とりあえずこの状況では落ち着いて話もできないか」
テンタクルを再び動かし――
「うおっ?!危な――ぐへっ!」
ジュドー・アーシタを拘束しようとするが躱そうとするが、訓練もされていない人間が私のテンタクルから逃れられるはずがなく、縛り上げてリィナ・アーシタを持ち上げて私のもとまで連れてくる。
「リィナ!」
「助けたかったら黙っていろ」
負傷した周りのドレスを切り取り傷を露出させる。
更にジュドー・アーシタがうるさいのでテンタクルを突っ込んで黙らす……後で消毒が必須だな……まぁ妹が襲われているように見えなくもないので気持ちはわからなくもないが、これ(アレン人形)のセンサーでは服の上からではスキャンできないのだから仕方ないのだ。説明する面倒だし。
さて、内臓は……上行結腸に損傷か、この程度なら治療は……万能細胞による接合か、それとも通常の縫合か。
「ちっ、そういえばここは地球だったな」
コロニーや艦内と違って大量にホコリが舞い、雑菌だらけ環境だったな。
このままでは化膿や感染症を引き起こす可能性がある。特にスペースノイドは地球の環境に慣れていないため、怪我からの重症化リスクが高いと聞く……大体は予防接種を受けずに渡航したからだという話だが医学会ではなくマスコミからの報道だったはずだから真偽は不明だがな。それなら最初から予防接種を受けていない者に渡航を許さなければいいだけだと思うが。
傷口を滅菌し、触れないように精密作業用のテンタクルで内部に侵入させ、手早く治療を始める。
無いとは思うが万能細胞を地球で使ったことがないので今回は普通に縫合処置しておく。
「よし、終了。後は念のために抗生物質を投与しておくとしよう」
元々白兵戦用のアレン人形だからこそ戦地の治療に必要な医薬品は全て揃っている。……まぁ体内に収納している関係でスミレやジャミトフ、その周りからは不評だったりするが余談だろう。プルシリーズとハマーンにはウケが良かったが……イリアは呆れていたがこれらも余談だな。
「ほら、処置は終わった。少しは話しをする気になったか」
傷の縫合も、ついでにドレスの切り取った部分の補修も済ませて、ジュドー・アーシタの拘束を解いてリィナ・アーシタを渡す。
「あ、ああ。助かった……あ、あんたは人間じゃない……のか?」
「宇宙にいる本体は普通の人間だがここにいる私は俗に言うロボットだな」
「宇宙に本体って……今は戦闘中だぜ。ミノフスキー粒子で遠隔操作なんてできないはずじゃ」
「この体もキュベレイが使っているファンネルより複雑だが原理としては同じもので動いている。このテンタクルもな」
「その薄気味悪いのも、か」
どうやらテンタクルのウケは良くないようだ……ハマーン閣下もこっそり頷いている。
まぁプルシリーズが使うテンタクルはサイコミュに頼っていることで機械的な動きで気にならないらしいが、私が操るテンタクルは滑らかな動き過ぎるせいで生物の触手にしか見えず、そのせいで気持ち悪いという印象を持たれやすいがジュドー・アーシタも例に漏れないようだ。
「それでは医療費をいただこうか」
「は?」
「まさか治療してもらっておいて払う気がないのか」
「あれはあんたが勝手に!それに元々はハマーンが――」
「ああ、私とハマーンは別組織の人間なので私が責任を取る必要はない」
「そうなのか。でも、だからって納得できるか!治療の押し売りなんて――」
「ならもう1度傷を開いてやろうか」
テンタクルをうねらせて威嚇するように動かすとジュドー・アーシタが緊張するのが手にとるようにわかった……ついでになぜかハマーン閣下も。なぜだ?
「で、でも自慢じゃないが金なんて持ってないぜ」
「そうだろうな」
例外はあるが生活に余裕がある者は教養を身に着け、無意識に喋り方に出るもので、ジュドー・アーシタは明らかにそれがない。
と考えていることを読み取ったようでジュドー・アーシタは不機嫌そうな表情をするが、事実だろうに。
「ま、まさかリィナ目当てか?!」
「いや、女という意味なら別に困っていない」
そもそもポッと出の女に現を抜かすようなことがあればハマーンと上位ナンバーに刺される……私に刃物が到達することなどないからあくまで言葉の綾だがな。
最近になって妙な上位ナンバー達とハマーンの距離感の正体が判明した。
どうも上位ナンバーは私を異性として意識するようになっているようで外から来たハマーンに強い警戒感を持っているようだ。
まぁ自分達とは明らかに違う個体だから思うところがあって当然と言えば当然だが……まさかこんなことになるとはな。
その話はまた今度にするとして――
「ジュドー・アーシタ……お前が体で払ってくれればいい」
「ま、まさか……そっちのケが?!」
「お望みなら体験させてやるが?」
テンタクルをドリルモードにして高速回転させて問うと一瞬想像してしまったようで青い顔をして全力で横に顔を振る。
私もテンタクルをそんな汚し方するのは不本意なので頷かれても困るがな。