第四百三十九話
親の獣が子を守るようにプルシリーズ……『プル』がアーシタ兄弟を庇う姿は私にとってかなり新鮮だ。
例え私が少し(少し?)優れたニュータイプとはいえ、やはり視覚情報に頼る部分が多いのは人間である以上仕方ないことだ。
そして視覚情報に頼ると間違いなくプルシリーズが私に心から敵愾心を抱き、顕にしている。
なんとも不思議な感覚だ。これが反抗期に入った子を持つ親の心境だろうか。
「ハマーン閣下。このプルシリーズは何体いる」
「アレン代表は私が聞けばなんでも答えると思っているのか。機密事項だ。安々と教えられることではない」
聞いた瞬間に思考を巡らした段階で私には大体のことが伝わってしまうのだが言わないでおこう。拗れたら厄介だ。
しかし、5体か……少ないな。ニュータイプをクローンして兵士にするなら最低でも予備戦力として10体は作っているはずだ。いくら肉体的成長は早くとも育成には時間が掛かる以上、必要数程度で済むはずがない。何か裏が……いや、まぁ別派閥による横領か研究者の横領のどちらかだろう。別派閥は替えの利く有能な戦力の確保、研究者は成果を出さねば予算が下りず、だからと言って馬鹿正直に成果を全て申告して全て取り上げられては困ると検体として手元においている可能性が高い。
実体験だが、ジオン上層部には使えるものは使ってしまえという考えの者が多く、研究の持続を考慮などしないことがほとんどだからよく分かる。
「ついでにあれを貰って行ってもいいか」
「いいと思うのか」
「敵に懐いている段階で調整が失敗しているのは明白だと思うが……なんだったらこちらで躾直してもいい」
「ふむ」
「ああ、それと勝手ながらここに援軍を向かわせている。後3分もすれば上空にいるカラバのMS部隊と交戦するだろう」
シルメリアに急拵えの使い捨てオプションパーツだが、大気圏突入速度を上げると同時に、本来段階的に速度を落として降下することで空気摩擦に耐えることで大幅に到着を早めた。
まぁここまで高速で部隊を展開させる必要性を感じなかったのでコストパフォーマンス優先しただけで、これぐらいはやってやれないことはない。採算に合うかどうかは別だがな。
なにせオプションパーツが使い捨ての理由は――
「とりあえずこいつらは私が預かる。後、この座標にいる味方は避難させておけ」
「どういうことだ」
「高速大気圏突入……いやもう突破用か?のオプションパーツだが、パージした後の減速など欠片も配慮していない」
「つまり……加速した隕石が降ってくるようなものか」
「大雑把に言えば戦術核が6発分相当だな」
「…………最低限の影響は考慮されているようで何よりだ」
頭痛でもするかのように頭を抑えてハマーン閣下がつぶやくが、それぐらいのは配慮は当然だろう。
心配があるとすればあくまでまだ不十分なデータしか揃っていない大気圏内シミュレーションの結果だということだが……シルメリアの運用で大量のデータを手に入れたので大きくは外れないはずだ。多分。
「次はないことを願うぞ」
「配慮しよう」
今回は半ば押し売りで援軍を送ってアーシタ兄弟を預かる対価としたからこんな形になったが日頃からこれほど非常識なことをしているわけではない。
ただし、無いとは言い切れないが。
「な、なあ。リィナを治療してくれたし、リィナを酷い扱いしないならついて行ってもいい。でも更にお願いがあるんだ」
成り行きを伺っていたジュドー・アーシタが覚悟を決めた表情で問うてきた。
「ジュドー?!ダメだよ!あいつは危険なんだよ!わかるでしょ?!」
「でも逃げ出せる気がしないんだよ」
「ジュドー・アーシタ、なかなかいい判断だ」
そう言って今まで動かしていたテンタクル4本とは別に更に2本を動かして見せた。
これで今までが本気ではなかったことが理解できるだろう。
それに後2本を隠しているのだから万が一逃げられてもどうとでもなるはずだ。
「その勇気ある決断に敬意を表して言ってみるだけ言ってみるといい。あまりにも無茶なことでなければある程度は叶えてもいい。コロニー……シャングリラが欲しい程度なら時間は掛かるが手に入れるが?」
「ちょっ?!なんで出身を知っているのかもだけどコロニーなんてそう簡単に手に入るもんじゃない――んだよな?」
なぜか私ではなくハマーン閣下に確認するように話しかけ、それに肩を竦めながら答えた。
「そのはずなのだがアレン代表ならやりかねん」
先程まで敵対関係だったはずだが、無駄な意思疎通ができているのか。ニュータイプの共鳴もないようだが?
「それで、何が願いだ」
「エル達……今街で戦っている仲間を助けてやって欲しいんだ!」
「なるほど、しかし、それは私の管轄ではない話だな。ハマーン閣下」
「……ハァ、アレン代表には何か埋め合わせしてもらわねば割に合わないのだが?」
「うちのハマーンと同じぐらいに若返らせるのはどうだ」
「………………また後日語り合うとしよう」
「それがいいな。では頼むぞ。ああ、彼らには私の方から連絡しておくので気にしなくていい」