第四百四十二話
「うわーーーー!!」
「キャーーーー!!」
全く、うるさい奴らだ。MSに乗っているんだからこの程度の速度は朝飯前だろうにたかがテンタクルを使った移動程度で悲鳴を上げるな。
もっともプルの方は半分は楽しんでいるようだが。
私達はシルメリアに回収されるために市街から離れた荒野へと向かっている。
ミソロギアの存在はまだネオ・ジオン軍には浸透していないのだからシルメリアのような所属不明のMS(正確にはMDだが)を戦場のど真ん中に乱入させては混乱に拍車がかかると配慮した結果だ。全てなぎ倒してしまえば楽……ではあるが、さすがに12機のシルメリアでそれは難しいだろう。少数運用させるつもりはなかったが、緊急展開用ブースターがそれだけしか用意できなかったのだから仕方ない。
「ビーチャ達、大丈夫かな。あの衝撃で混乱してなきゃいいけど」
「大丈夫だ。お前の愉快な仲間たちは元気に戦っている」
「そんなことがわかるのか」
「ニュータイプとして訓練をすればこのぐらいの距離ならよく知る相手なら気配を感じるぐらいなら難しくない」
少しすると幾分か余裕ができたようでジュドー・アーシタが他人の心配を始めた。
自分で言うのも何だが、ニュータイプが捕まってはいけない相手上位に入っている私に捕まっていると言うのに能天気なものだ。
「ニュータイプの力ってそんなに簡単に鍛えられるもんなのか?」
「才能がなければ薬物や拷問のような訓練が必要かもしれないが才能があればそれほど苦労しない」
「や、薬物に拷問……」
「ちなみにその才能というのは被験者だけでなく実験者も含まれる。そのあたりはそこにいるプルに聞くといい」
プルシリーズが私を見て反応がないということはやはりこの世界には私は存在せず、プルシリーズを作り出したのも私ではないということだ。
ならば何処で作り出されたのか……そんなものはフラナガン機関以外ないだろう。ただただクローン兵を作り出すだけなら外でもできるだろうが、ニュータイプのクローンなど他には無理だ。少なくともジオン系には。
「そ、そうなのかプル」
「うん。最近は少なくなってるけど、ちょっと前までは大変だったよ。それにこの前ジュドーと会った後から色々あってさっきまでジュドーのことを敵と思うように暗示?刷り込み?されてたし」
「え?!」
「大丈夫だよ。そこにいる怪物さんの気配でどっか行っちゃったから」
何処の世界でもフラナガン機関はフラナガン機関だな。
(俺、もしかして選択を誤った?)
「選択の良し悪しなど後になってみなければわからないさ」
「……俺、声にしたか?」
「ニュータイプとはこういうものだ」
「そうだよ。簡単なことならこれぐらい当然!それにジュドーも経験あるはずだよ?」
「言われてみれば……」
まぁジュドー・アーシタは育ちのせいかあまり頭を使うタイプではないから無自覚にしているのだろう。
「座標に到着……それに予定通りあちらも来たか」
高速で近づいてくるシルメリア(飛行形態)が気配だけではなく、視界に捉えた。
「飛び乗る時は黙っているように。舌を噛んでも治療してやらんぞ」
「おい?!飛び乗るって――まさか、あれに飛び乗るとか言わないよな?!あの速度のままで?!」
「そのとおりだ」
シルメリアは歩行を前提としていないため脚部に自立機能は存在せず、大型のスラスターとなっている。
故に着陸して回収などということはできない。ならこちらから飛び乗るしかないだろう?
「……リィナ、巻き込んでゴメンな」
「それは遺言か?」
「違う!」