第四百四十三話
「MS隊の状況はどうなっている!」
「ダカール市街に入ることができたのは6割です。残りはあの大気圏より乱入してきた12機のMSと交戦して足止めされています」
「くそ、何なんだ。」
ガルダ級アウドムラの艦長席に座るハヤト・コバヤシは苛立ちをぶつけるように肘掛けを殴る。
突如として舞い降りてきたMS12機は核が如き破壊と共に訪れ、好き勝手大暴れしている。
カラバもエゥーゴほどではないが地上に残っていたティターンズとの戦いで戦力は消耗していた。そもそも規模からしてエゥーゴほどのものではなかったのだから現状がどれほど苦しいものかは察して余りある。
そんな中で数を揃えてのネオ・ジオンへの奇襲。
成功させたいと思うのは当然として、今回はかなり無理をしたため、失敗だったとしてもそれなりの実りが欲しいと考えていた。
しかし、その願いを否定するが如く突如現れたMSに翻弄されている。
(アウドムラも投入するか?だが、対空砲を増設したとはいえ、あのMS達を相手にするのは無謀が過ぎる)
自分の命が特別大事だとは思わないハヤトだったが、無茶をした結果無駄死に……などということが許されるような立場にない。夫として父として、そして組織を率いる者として。
(とはいえこのままだとあのMS達に退路を断たれている。アウドムラの護衛を援軍に向けるか、だがそれをするとネオ・ジオンがこちらに来た場合無防備に――)
「――いつの間に?!」
「どうした!」
「敵MSが1機行方がわかりません」
「何?!急いで探せ!」
雲に紛れて接近されたら止められるかわからないので慌てて索敵を命じるがそれができれば苦労はしない。
そしてそんな最中に変化が起きる。
「――敵MSの動きが――なんだこれは?!」
オペレーターの絶叫に近い声が艦橋に響き渡る。
今までも何処にこれほどのパイロットが隠れていたんだと思わせる技量を見せていた。だが、それが急に、前線から離れているにも関わらずハッキリと見て取れるほどの変化が起こっている。
「な、何なんだ。こいつ等――」
そして後方からわかっているのだから前線で戦っているMSパイロット達はもっとダイレクトに感じている。
「くそっ、こいつら――止まらねぇ?!」
言葉こそ十人十色だが、言っている内容は同じものだった。
カラバのほとんどのMSは連邦軍から横流し(公然の秘密)されたジムIIIがミサイルポッドやビームライフルを撃つのだが――止まらない。
これまでは一般的な回避方法で旋回、上昇、下降などで躱していた。
しかし、突然、そんな当たり前の動作を突如やめ、ある方向に向かって猛然と突き進む。すべての攻撃を最小限の動きで躱しながら。
その向かっている方向というのは――
「か、艦長!敵MSがこちらに向かってきます!」
「護衛に迎撃するように伝えろ!こちらも全力で援護だ!後のことは考えるな!」
まだ前線からは距離はあるがシルメリアの速度からすると余裕がある距離とはとても言えないことを既に分かっているハヤトは素早く指示を出す。
「だが残念だったな。あれは囮だ」
アウドムラよりも遙か上空から生身の人間……を装った人形1体がスカイダイビングの真っ最中である。ちなみにパラシュートはない。
「プルシリーズの経験を後回しにして私が操って正解だったな」
見事に護衛を引き剥がすことに成功した。その上――
「ハッチまで開いてくれているが……間に合うか?」
アレンの予定ではもう少し対応に反応が遅れると思っていたため、余裕があると踏んでいた。しかし、ハヤトの対応が予測を上回った結果だから相手を褒めるべきだろう。