第四百四十四話
「なんとか間に合ったな」
ガルダ級のハッチが閉じる前に侵入することに成功した。
「諸君、出迎えご苦労」
間に合わせることを第一としたことで他のことまで気を回すことができなかったため、派手に着地音を響かせてしまったため、存在を知らしめ、既に乗組員が銃口をこちらに向けている。
人間が単独でどうやって侵入したのか疑問もあるだろうに瞬時に警戒するとはなかなかの練度だ。カラバの中でも精鋭のようだな。
しかし幸いにもMSは全て出払っているようだ。さすがにMSを相手にすると面倒なことになる……MSが暴れてガルダ級を無意味に破損させられては困る。
この体で1機2機程度のMSなら倒すことは可能だが、相手の動きによっては相応に時間を費やすことになる可能性があった。時間が掛かればガルダ級にも相応に被害が出ることになる。
「私が何者なのか――「撃て!!」――ヒーローの名乗りにしろ悪役の演説にしろ冒頭で割って入るのはマナー違反だ」
飛来する銃弾をテンタクルで全て弾いて様式美を説く、のだがどうも学習能力がないようで銃声は鳴り止まない。
そういえば、唯一重力下のメリットと言えるものが発覚した。銃弾の速度低下だ。もっといえば跳弾の回数が減少することだ。
無重力での跳弾は嫌になるぞ。特に今のように雨霰と撃つと跳弾する弾の数も多くなるので余計に……見える弾の軌道が多すぎてさすがの私でも疲れるからな。
「お約束を守れぬ者には罰を与えん」
あまりのしつこさにテンタクルを振るう。
「お、俺の腕が?!」
「大丈夫か――って、あれ、足が動か――足が、俺の足がねぇ?!」
「肩から先がないのに痛くないってやばいんじゃね?いや、肩がないんだから最初からやばいだろ!」
阿鼻叫喚とは正しくこのことだろう。
「しかし、うるさいな。せっかく痛みが無いように痛覚を遮断と出血しないように切断面を焼いてやっているというのに……騒ぐ要因はないはずだが?」
「く、狂ってやがる」
「こいつ!あ、残った腕がーーー!!」
銃を向けてきたのだから当然の対応だ。
「これで少しは静かになったようなので自己紹介をしよう。私はミソロギアという組織を率いるアレン・スミスという。私の目的はただ1つ。このガルダ級をいただくことだ。大人しく引き渡すなら乗組員と中の荷物は保証しよう。後、今回負傷した者達の治療も引き受けよう。私が治療すれば後遺症はなく、リハビリも最低限で済む程度にしか負傷させていない」
『……到底簡単な治療で終わるような内容ではないと思うのだが?』
「ハヤト・コバヤシか」
スピーカーから聞こえてくる声は知ってはいても前の世界では会う機会がなかった人物だな。もっとも地球で活動する人物である以上私にとってはそれほど重要な人物ではないから仕方ないな。それにニュータイプではあるようだが元々の才能はともかく、現在では老いてしまっているので成長は多くは見込めないためなおのこと重要ではない……のだが……。
「つかぬことを聞くが、最近ニュータイプの身内が亡くなってはいないか」
『……何を言っている』
「先程から弱い死者の念がうるさいのだが、どうもお前さんを守ろうとしているようだな」
そういうとハヤト・コバヤシに動揺が走ったようで感情が明らかに乱れている。