第四百四十五話
「どうやら心当たりがあるようだな。しかしニュータイプとしての素質が足りずに思いが伝えられずにいるようだが……伝えてやってもいいのだが……」
『私にどうしろと』
「そういう意図で話しているわけではない。取引に使うにも信用できないだろう?あくまで善意のつもりだったのだが、問題は普通にやっては私との格差で伝えたいことを知ろうとすると思念が消し飛んでしまう可能性が高いので悩んでいる」
どうしたものか、といずれかの四肢を切り落として無力化した兵士をテンタクルで整列させ、抵抗されると面倒なので関節を念入りに外して更に無力化しておく。私のガルダ級を無駄に壊されるの不愉快だ。
それにしても面白い。
ニュータイプの素質から考えてこれほど思いが残るとはとても思えないのだが、思念の強さとニュータイプの素質とは相関関係はないということか?しかし、それなら死者の念はもっと多く存在することになるが私には近くできない。何か条件があるのだろうか。
と、今はそれどころではないな。
このようなシャーマン的なことは試みたことがないが勢いに任せてやってしまえば言った通り貴重なサンプルを消し去ってしまうだろう。
私が直接では無理とすると……本人、つまりハヤト・コバヤシと共鳴した上で触れれば思念も強くなるだろう。それでなんとかなるか?万全を期すなら本物の私と接触した状態でやりたいところだが、さすがにまだ情勢が安定していない今、ミソロギアを離れるのは不安なので地上に行くわけにもいかない。
ハヤト・コバヤシを連れ去るというのも選択の1つだが、ジュドー・アーシタ等と比べると協力的そうにないので面倒そうだ。
「とりあえずスピーカー越しではなく、そこから出てきたらどうだ」
話している内に本人が格納庫の外にまで来ていることは既にわかっている。今までの会話は時間稼ぎだったわけだ。別に時間を稼がれたからと言って困るのはパイロットスーツを着てシルメリアに抱かれながら中間圏で待機しているジュドー・アーシタ兄弟とプルだな。中間圏を生身で体験するなんてなかなかない機会だから喜んでいることだろう……いや、さすがに冗談だぞ?
「出る前に確認するがお前は人間でいいんだよな」
姿を現さないまま不思議な言葉が聞こえた。……?……ああ、そうか、突然生身の人間(に見える)存在が空から降ってきて触手を生やして暴れていれば宇宙人に見えなくもないか?少し妄想し過ぎな気もするが。
「この体は人間ではなくロボットだが、操縦しているのは人間で間違いない」
「は?ロボットだと」
虚偽は後々面倒になることが多く、特にミソロギアではニュータイプがほとんどであるため虚偽が通じないことから事実しか語らないが、本当のことを話すと嘘くさい真実というのは隠した方がいい気がする。特に外の人間には説明が面倒だ。
「ほら、この通り」
人形を本格的に導入を始めた頃にプルシリーズを驚かす一芸として実装した昔見たマジックの映像データから着想を得た首ポロリである。その頭や胴体の断面はロボットらしくメカメカしいものとなっている。
初めてプルシリーズに見せた時の断面は100%再現し、ついでに出血も大サービスしたのだが……ガチ泣きされたり、気を失ったりと阿鼻叫喚の様相を呈した。そして初めてのプルシリーズからの抗議が殺到した事柄でもある。
しかし、これによってニュータイプ能力が向上したというデータを手に入れた私が止める訳もなく、プルシリーズが必ず1度は通る行事とした。かなり不評だったが、1度だけならと納得した。
半ば拷問のような訓練より不評なのはちょっと私にはわからない。プルシリーズはホラーが苦手なのだろうか。
それは置いておくとして、証明してみせたものの返ってきた反応は――
「――ッ」
1つ息を呑み、余計に不審感を募らせている。
やはり誠実も時と場合によりけりだな。次回からは配慮するとしよう……覚えていたら、な。
「つまり、お前達が最後の手段と考えている自爆などこの体が鉄くずになるだけで大した損害ではない。第2、第3の私が現れるだけだ」
まぁ既にアレン人形は100体近くあるので第2、第3どころの話ではないが。
私の損害を強いて言えばここまで送る手間を増やされることとガルダ級が手に入らないことぐらいだろうか。
「それで返答は?時間を稼いでMS部隊を待っているなら無駄だ」
シルメリアを操縦しているのだから戦況は把握しているのは当然として、その戦況はもちろんこちらが優勢。
練度は高めではあっても所詮ニュータイプもエースも存在しない部隊など私の相手にならない。
全てが――終わりまで視えている。
「それともそこに隠れていれば安心だと思っていたりはしないだろう?」
あまりやりたくはなかったがテンタクルで壁を貫通し、ハヤト・コバヤシの周囲にいた5人の手足を切断して隠れているのは無意味だと告げる。
「わ、わかった。乗組員の命は保証してくれるんだな?」
「人の命なんて奪ったところで私に何一つ得がないから信用してもらっていい。ついでに治療のことも」
母艦級では既に医療コンテナを製造中で、そう経たずに完成する。ハマーン閣下を若返らせる機会もあるかもしれないのでちょうどいいかと思って製造に踏み切った。
「何にしても勇気ある決断に感謝する」