第四十五話
<ハマーン様>
「嘆かわしい」
この辺境で、しかも敗戦国の残党という圧倒的に弱い立場である私達は結束していかなければ生きていけない。
確かにアクシズは狭い、狭いが……だからといって命を賭けて作戦を実行した者達を無碍にするなど……本当に嘆かわしい。
「そこで新しい基地の建設を提案する」
「新しい基地か、しかしわかっているだろう?私達にそれほどの余裕はないぞ」
「アナハイムと取引をしてはどうだろうか」
アナハイムか、元々アクシズはジオン公国とアナハイムの共同運営であったことから繋がりは強い。
しかし、この状態の私達では取引材料がない。
「ガンダリウムγを出してはどうだろう」
「なに?あれは最重要軍事機密だぞ。アナハイムに渡れば連邦にも渡り、こちらの優位はなくなってしまうではないか」
「それがそうでもないようだ」
デラーズ・フリートの星の屑作戦成功で反スペースノイド、反ジオンの機運が高まり、ジオン残党狩りを目的とした治安部隊ティターンズが結成された。
ここまでは私も知っていることだ。
そしてそのティターンズという部隊は急速に勢力を拡大しているようで、連邦系の技術を使い、MS開発まで行っているそうだ。
そのMS開発に、ジオン系の技術が多いアナハイムは参入することができず……それどころか既存の利権からすらも締め出されつつあるようだ。
打破を図るために新しい取引先として選んだのが親スペースノイド、反ティターンズとして活動をしている連邦軍らしい。
まだはっきり組織化されているわけではないようだがそれなりの数がおり、ジオンの
「つまり、敵の敵は味方、と?」
「味方とまでは言わないが友好的な中立ぐらいにはなるだろう」
しかし……イマイチ信用できない。
商人は表向きは信用第一と言いつつ、裏では平気で裏切る。
何よりアナハイムとの取引がなくなればそれだけで大打撃……依存度が高すぎて平等な取引ができているとは言いづらい状況で、裏切られたところで文句が言うのは立場上かなり難しい。
「それにガンダリウムγの精錬設備が足りず、需要に供給が補えていない」
「それは……アレンがなんとかしてくれる」
「さすがにアレン博士でも……いや、なんとかしそうで恐ろしいな」
……本当はアレンにも無理だと言われている。
それは技術や知識の問題ではなく、単純に資源不足というのが口惜しい。
精錬に必要な設備には希少金属が必要で、それが確保するのが難しいと言っていた……片手間で代用品を考えてみるとは言っていたがそれも期待しないでおくよう言われている。
「……わかった。その方向で考えておこう」
「ありがとうございます。その取引に、私が直接アナハイムに……月に赴こうと思う」
「このタイミングでシャアが居なくなればタカ派の勢いは強くなり過ぎる。それに……ナタリーはどうするのだ」
タカ派寄りの方針を多く採ってきたが、それはあくまでタカ派が多数派であるためであって本気で戦いを挑むにはまだ早すぎる。
このままタカ派が勢い付き続ければ開戦することになってしまう。
「ティターンズの台頭によってサイド3を始めとした各サイドで連邦への反発が強くなってきているらしいのでその様子も見ておきたい。最近では組織的な活動も活発化していると聞くし、上手くすれば協力関係になれるかもしれない……ナタリーは……置いていく」
なんだとっ?!妊娠中のナタリーを置いていく?!もしや、これがネグレクトというやつなのか?!
……いや、落ち着け、私。
ネグレクトは育児放棄や障害者、高齢者虐待に使う言葉だ。
それに妊娠中だからこそ置いていくのだ。地球圏まで行くとなるとまた何ヶ月も艦内生活となるのだからストレスによる悪影響は避けられないだろう。
「…………その件も考えておこう」
結論が出ず、そう答えることしかできなかった。
ハマーンから居住スペースの確保ができないかと問い合わせがきた。
最初は私の部屋に居候でも入れる気か?と思ったが、どうやらデラーズ・フリートの残党を受け入れるスペースがないらしい。
……なぜ受け入れた?普通に身分偽装させてテキトーにコロニーに潜伏させればよかっただろ。
まぁ、手練の指揮官やパイロット達を手放すのは惜しいがな。
とりあえず、空気と水を用意してくれるなら1000人ぐらいならどうにかなるだろうと答えておいた。
今の手元にあるスクラップを使えば十分な敷地面積を得られる簡易コロニーが作れる。
それにしてもなぜ今更になって居住スペースの問題が浮上したのだろう。随分前から検討していたはずなのだが……まぁ私には関係ないか。
と言うか、また専門分野ではない仕事か……最近、ハマーンは私をなんでも屋だと勘違いしている気がする。