第四十六話
ガンダリウムγの精錬設備に関して再びハマーンから打診が来た時、急に閃いたことがある。
ガンダリウムγはαと比べると精錬には希少金属が必要ない点ではかなり優れているが、希少金属が必要ないのはあくまでガンダリウムγ自体であって設備には希少金属がそれなりの量が必要だった。
その設備をどうにか改造して希少金属の必要量を減らせないか考えていたのだが……よく考えると今の設備の設計やガンダリウムγの精錬方法は私やスミレではない誰かが用意したプランをそのまま使ったものなのだ。
つまり、何が言いたいかというと、ガンダリウムγの精錬を別のアプローチで行えばいいのでは、もっと平たく言うと私流にガンダリウムγを作り出せば希少金属が必要なくなるのではないか、ということだ。
まぁ言うだけなら簡単だが、実現するには少し時間が掛かるだろうがな。
ひょっとするとガンダリウムδ(デルタ)になるかもしれないが、その時はその時だ。
「やはりというか……スクラップだけでは限度があるな」
簡易コロニーの建造を依頼されてスクラップは本当に必要最低限程度しか残っていない。
新たなスクラップは当面期待できない。今、アクシズは私にスクラップすら回せないほど資源が不足している。
そのおかげ、と言っていいのかわからないが材料が根本的に違うクローンの研究はかなり捗っている。
とりあえず猫耳、犬耳、狐耳の三大獣耳を作ることができた。
次回からのプルシリーズはこれを標準装備——
「駄目に決まってます!それにいつになったらベッキーのエルフ耳を直してくれるんですか!」
「いや、しかし、獣耳やエルフ耳は通常の人間より聴力が優れていてきっと役に立つ——」
「人間の生活環境は通常の人間に合わせて作られてるんです。必要以上の聴力なんて逆に拷問なんですよ!」
「だから専用の補聴器を用意したではないか」
「ええ、本人の意思で聴力と聴力の指向性を調整する無駄に高性能な補聴器を用意してくれましたね!」
言い方に棘があるな。
その補聴器は検体がニュータイプであることを利用してサイコミュで聴力の制御ができるようにしたのだが、運用データからするとなかなか使い勝手が良いようだ。
検体にそういう知識がないから仕方ないが、人間の心音である程度の読心術ができるようだし、聴診器を着けているようなものなので健康状態の把握やある程度の距離でもイヤホンの音が聴き取れたりと諜報活動に役に立つだろう。
「そもそもエルフ耳とか獣耳とか目立つから諜報活動に向いてませんから!!」
……これは盲点だったなー(棒読み)
「むっ、この感覚……カムジ准尉?なぜここに?」
「カムジ、さんですか」
「ああ、サイド3で知り合ったニュータイプだ。サイコミュは使えないようだがパイロットとしては1流だ」
「へー、アレンさんがそういうなら凄いパイロットなんですね」
「現在のイリアよりは強いだろうな」
「むっ」
おっとイリアが気に入らなさそうだな。
しかし、カムジのあの操縦技術はサイコミュが使えない(厳密にはビットの遠隔操作)イリアにとっていい経験になるだろう。
せっかくであるし模擬戦を頼むか。
「望むところ」
「プルもやるー!」
「そいつを倒せば私も1流と認められる……」
「……ヌッコロス」
イリアだけでなくプル達も気合い十分なようだな。
「ところでそのカムジさんって方は何処にいらっしゃるんですか?」
「今はゲートで入管手続きをしているな」
「…………本当にアレンさんは規格外ですよね」
改めて言われると思うところがある。
ついこの前までこの感覚は誰にでもできるものと思っていた自分が恥ずかしい。
普通のニュータイプはこれほどの広範囲を察知することはできないらしい。
本当にうっかりしていた。私は感応能力の質は見ていたが範囲に関しては気にしたことがなかったからな。
道理で皆、人を探し回るはずだ。私のように人が何処にいるかわかっているわけではないのだから……前まではなんでアクシズ内で人探しをしているのか、アナウンスで呼び出しがあるのか意味がわからなかった。
私はアクシズ内なら名前や顔を知っていれば何処にいるのかわかるからな。最近ではハマーンやシャアなどの行方がわからない時などよく聞かれるようになった。すごく迷惑だ。
ちなみにプル達と隠れんぼするのだが見つかったこと、見つけられなかったことは1度としてないのでプル達が拗ねさせてしまうためしないようにしている。何気にイリアまで凹むからな。
さて、カムジ准尉が入管を終えたようで移動を始めたからイリアやプル達、そしてスミレを連れて会いに行くことにした。
「久しぶりだな。カムジ准尉」
「げっ、いきなりラスボスだヨ」
「げっ、とは挨拶だな。元気そうで何よりだ」
「アレンも元気そうネ……それに……その年でハーレムとはなかなかやるネ」
……言われてみれば私の周りには女性ばかりだ。まぁ男に囲まれては暑苦しくて仕方ないが。
「ふん、カムジ准尉なら大体わかるだろう」
「……研究の被験体……」
「まぁそんなところだ。もっともカムジ准尉が想像しているようなものではないがね」
カムジ准尉が過去受けたであろう実験が脳裏を過るが、私はそんなコミュニケーションに支障を来すようなやり方はしない。
「うん、この子達の表情を見ると……そっちの子だけ怪しいけど、そんなに酷い環境じゃないというのはわかるヨ」
ちなみにそっちの子というのはイリアのことだ。
確かにイリアは無表情だからそう取られても不思議はないが、このような成長を望んだわけではないのだね。
私とイリアなら思念で意思疎通ができるからどう思っているかわかるのだが、第三者が見れば気味が悪い関係だろうな。
「この子達はそっくりだけど三つ子?……見た目だけじゃなくてオーラというか、雰囲気というか、までそっくりだけど?」
「ああ、ちなみにプル、プルツー、プル3だ」
「……名付け親のセンスを疑うヨ」
……もう少しちゃんと名前を考えればよかったか?悪目立ちしてしまうが……まぁプル達はあまり人前に出ることはないはずだから問題はないはずだ。
「ところで私に会いに来たみたいだけど何か用?」
「それなのだが……」
事情を説明してイリア、プル達と模擬戦をして欲しいと頼むと快く承諾してもらえた。
ついでにデータも取らせてくれと言ったら断られた。残念だ。
ちなみにカムジ准尉は自身の機体、黒い三連星仕様の高機動型ザクII改良型を運んできているらしいのでちょうどいい……ん?ガーベラ・テトラ対高機動型ザクII改良型で戦うのか?さすがに不公平過ぎる気がするぞ。
せめてドムあたりなら……しかし慣れた機体でないと力は半減するだろうし……まだまだ幼いプル達にあまり無用な自身を付けさせたくないんだがな。