第四百五十七話
「正義感も結構だが、それによって生み出された者の気持ちを考えることも大事だと思うが」
プルがプルシリーズに向かって行くのを見送り、通常の会話なら聞こえない距離まで離れた後に注意する。
プルシリーズは姉妹が多く、仲間意識が強くなるように教育しているし、外の世界では自分達が忌諱される存在であることも教えて込んでいるため問題は少ない。
しかし、あの反応を見るにこの世界のエルピー・プルは自身がクローンであることも、自身と同じクローン体がいることも知らず、しかも典型的な強化を受け、多くのPTSDを抱えている。
そこに配慮のない言葉を吐き続けるのはどうかと常識人の私は思うわけだ。
「うっ」
「すみません」
「私に謝る必要はない。傷ついたのは私ではないからな」
「……少しは気にしてもいいのよ?」
気にする必要性を感じる内容はなかったぞ。
「リィナ達が世話になったな」
「お前は冷静だな」
「思うところがないわけじゃないけど、ハマーンみたいな嫌な気配を感じないからな」
「……それはハマーンが哀れだな」
「なんでだ?」
「まず勘違いを訂正しておく。ハマーン閣下の気配を嫌うのはジュドー・アーシタ、お前自身の未熟さとハマーン閣下自身の覚悟を感じ取っているからだ」
「俺の未熟さ?」
「当然だろう。お前は確か今年で14のはずだ。未成年で、まだまだ子供の範疇だ。そもそも世では18から社会的に大人とされるが、社会の経験を積んだ本当の意味で大人となると個人差はあるが20代後半になってようやくといったところだろう。さて、それを踏まえた上でハマーン閣下の話を少ししよう。とはいえそれほど興味がないだろうからざっくりとだが、12歳頃にニュータイプ研究のために検体となりジオン公国敗戦前に辺境のアクシズへ移り、16歳でアクシズをまだ幼いミネバ・ラオ・ザビに代わり率いるために摂政となり、現在に至るわけだが現在は21歳だ」
「え?!若っ?!あれで21歳!」
気持ちはわかるが女性の年齢に関しては迂闊に言わぬ方が身のためだぞ。ほれ、エル・ビアンノもリィナ・アーシタも冷めた目で見ているぞ。
「ではジュドー・アーシタに聞くが、2年後に何万何千万何億という人間の生と死を背負い導く覚悟ができるか」
「無理無理無理っ!絶対無理!いい加減今だって手が震えるのに」
「見栄を張らないのはいいことだ。今まで本当の意味で権力を握った者とあったことがないだろう。そして権力を握ったニュータイプなどという希少種に出会うわけもないので背負い者特有のプレッシャーは責任感が薄い未成年とは合わない」
「でもこのミソロギアってのはアレンが率いているんだろ?ならアレンも似たようなもんのはずだろ」
「私はニュータイプとしての格が違うので訓練していないジュドーでは感じられないし、感じられなくもできるが……何より私は趣味でやっていることだから重く考えていないというのもある」
それに未確定だがハマーンのために死んで逝った者達の思念を感じ取っているのかもしれない。私では感じられないオールドタイプの思念をハマーンが纏っている可能性は十分にあり、それをジュドー・アーシタが感じているなら私と感じ方が違っても不思議ではない。