第四百五十八話
「自分の未熟と自立した者と比べた時に嫌悪感を抱く、これは避けられない。それにハマーン閣下を禍々しく感じたかもしれないが、それはやめておけ。後悔するのは自分だからな」
「なんでだ?」
「それを答えたら後悔するのが早まるのだが……私としては問題ないから答えてやろう」
「いや、やっぱりいい――」
「ハマーン閣下は組織どころか国を率いている。それは清濁併せ呑む必要がある。濁とは虐殺、暗殺、拷問、脅しなどだな。お前達基準では受け入れられないだろう?しかし、な。たった1つの情報を入手できずに数百数千の命が失うかもしれないのに手を抜けるか?自分に従う人間が次々零れ落ちていくのをただただ見守ることこそ悪ではないか。そしてジュドー・アーシタ。お前はリィナ・アーシタを守るために人を殺した。そして命令をしたのは、MSを与えたのはエゥーゴだ。未成年の者にそれをさせるのは一般的にも軍的にも悪逆無道。実質的に国家元首であるハマーン閣下が行っているそれよりも道理に通らぬものだ」
「だ、だけどよ!」
「ネオ・ジオンがその気になればエゥーゴが未成年者を利用していると暴露されると非難の的となるだろう」
もっともハマーン閣下はジュドー・アーシタが気に入っているようなのでそういう攻め方はしないはずだ。
いや、裏から手を回して戦線から引き離すようにするかな。ジュドー・アーシタ達の参加はカミーユ・ビダンやファ・ユイリィと同じく現場の判断で徴兵されたことからエゥーゴの上層部に情報を流せば上層部は必要な戦力だとわかっていたとしても体裁を保つためにジュドー・アーシタ達を手放すだろう。
そうすれば戦う必要もなく、争いが決着した後にリィナ・アーシタごと迎え入れるようにすれば脅威にならず、手中に収めることができる。
「そしてその咎は一生付きまとう。いずれ大人になり、社会へと進み、そこで思い知ることになる。社会とは如何にはみ出した者に残酷か」
お国を守るために戦う兵士にすら人殺しだと冷たい言葉を投げかけるのが世だ。
未成年ではあるがMSの窃盗未遂に正当な手続きすら踏んでいないのに人殺しを重ねた者に向ける眼差しは温かいものではないだろうと現実を突きつけられたためジュドー・アーシタ達は顔色を悪くしていた。
誰しも自分が主役でありたいし、悲劇なら同情される側でいたい気持ちになるのはわかる。特に未成年なのだからなおさらだ。
しかし……アーガマとの出会いはジュドー達にとって不運だったかもしれない。これがアーガマ以外……一年戦争時に民兵ばかりのホワイトベースを指揮していたブライト・ノアでなければジュドー達も違った未来があっただろうに。
「ねぇ……その……」
プルは自身によく似るプルシリーズにここでの暮らしに不満はないのかと聞きたかった。
とは言っても直接的に言うのは能天気なプルでもさすがに憚られたようで言葉が口内で留まる。
「私達は幸せだよ」
しかし、ここにいるのは全員ニュータイプで、しかも遺伝子情報が違ってもなぜか似通った気配を持っているため察するのは容易であった。
「そうね。ちょっと他の人とは違うけど生まれに関しては気にしない姉妹が多いわ。アレンパパのおかげでね」
「生まれとか常識よりもアレンパピィのトレーニングを受け続けてる方が絶対普通じゃないよね」
「「間違いない」」
「あ、ちなみに私達のトレーニングは後で見学と体験することになるからね」
「ええええ」
「気持ちはわかるけど、多分あなたが経験しているトレーニングとは随分違うわよ。ハマーン閣下も言っていたみたいだし」
「それに本格的なトレーニングはできないよ。肉体強度が足りないと思うし」
「む、私だって鍛えてるもん!」
その言葉を聞いても強がりを言っているようにしか聞こえないプルシリーズは微笑ましい思いでプルを見る。
薬やPTSDなどで調整された強化人間であることを知るプルシリーズは目の前の姉妹ではない姉妹が明るい……自分達の知るエルピー・プルと似た雰囲気に育っていることにホッとする。
「私達とは体の作りが生まれた瞬間から違うから無理しちゃダメよ」
「触手も使えないしね」