第四十七話
『くっ!当たらない!!旧式の分際でえぇ!!』
『ツーちゃんもプルちゃんも凄いねー。その年でそんなに戦えるなんて!』
今戦っているのはプルツーとカムジ准尉だ。
ブルツーが操縦しているのはガーベラ・テトラで、カムジ准尉はやはりザクだ。
テスト運用を行ったことでガーベラ・テトラのOSの開発は随分進んでいる。つまりこの前の模擬戦で戦った時より断然動きが良くなっている……にも関わらずプルツーはカムジ准尉を倒せていない。
いや、倒せないどころか遊ばれているように見える……見えるではなく、事実、遊ばれているのだろう。
そして……この前に戦ったプルだが、見事に敗北してしまった。プルはそれはもう落ち込んでいる。トラウマになるぐらいに。
そのおかげでニュータイプとして更に強くなったようだがな。
プルは調子に乗って攻める傾向があり、攻撃が読みやすいためカムジ准尉に翻弄されて終了。
プルツーはプルと同じく攻め重視ではあるが、プルが感覚派であるのに対して計算派であるため、まだいい勝負をしていた。
しかし、ザクとガーベラ・テトラで互角というのは何とも言い辛いものがあるな。正直フォローが大変だ。
自信を持たれ過ぎるのも問題だが、心を折られるとパイロットとしては致命傷になりかねない。
その程度で普通なら折れない……普通なら、だが。
クローン体はやはり生物として歪なものだ。成長過程を飛ばしているので当然と言えるが、その歪さがどのような形で出てくるのかは私でも未知数だ。
実際、なぜハマーンをあれほど嫌っているのかがわからん。
ん?服の裾を引っ張られているのに気づき、そちらに顔を向けるとそこにはプル3がいた。
「……ツーが負けたらアレ使う」
「アレとは……アレか?」
「アレ」
……プル3は何気に容赦がない。
彼女が言っているアレとは……トゥッシェ・シュヴァルツのこと(シュネー・ヴァイスの後継機のこと)だ。
実は簡易コロニーの報酬としてトゥッシェ・シュヴァルツをもらうことになったのだ。
シュネー・ヴァイスの後継機でスミレの手がけた機体というだけあってなかなかいい機体ではある。
何よりビットを小型化したSビット(ファンネルより大きいがビットより小さい)を装備している。
それをプル3は使おうというのだ。
もっとも——
「相手はニュータイプだとビットはあまり有効打にならないことを理解しているか?」
「あっ」
意外と抜けているところもある。
まぁ私の可愛い作品であるから許す。
「でも……やる」
とやる気を漲らせている。
今のプル3が同時に扱えるSビットは6機、しかも6機のSビットを操っている場合本体の動きが疎かになるという弱点がある。
これがプルやプルツーと組んでならサポートもできるだろうが……。
「あ……落とされた」
モニターを見ると撃墜判定が映し出されていた。
撃墜されたのはもちろんプルツーだ。
続けてプル3が挑んだが一蹴された。
カムジ准尉は最初こそSビットで燥(はしゃ)いでいたが、慣れてくると瞬く間にSビットを撃破していき、プル3もプル達と同じ末路となった。
もっともプル達には悪いがこの結果は予想通りだ。
プル達も強いのは間違いないが、精神が未熟である以上、相手がニュータイプであった場合は途端に苦戦することはわかっていた。
実際ハマーンやイリアには敵わない。
そしてこの模擬戦の本命と言える戦いが今行われようとしている。
イリアvsカムジ准尉の戦いだ。
ちなみにイリアはガーベラ・テトラ……ではなく、自身の専用機であるゲルググだ。
軍人であるイリアはさすがに旧式であるザク相手に現状、アクシズで最新機であるガーベラ・テトラで戦うというのはプライドが許せなかったようだ。
まぁこれが実戦なら甘い考えだと一蹴するが今回はあくまで模擬戦であることから許可した。
そういえばカムジ准尉は連邦との戦いで最新型のジム(ジム・カスタムのこと)をあのザクで撃破したんだったな。
よくあの旧式で撃破することができたな……いや、撃破ではなく、無力化だったか。
現状のイリアでもそこまでできるかどうか——
「始まったようだな」
とシャアが告げた。
そう、シャアだ。
プル3が撃墜されたあたりからシャアがこちらに向かってきていた。
シャアにプルシリーズの存在を知られるのは拙いのでプル達には先に帰ってもらった。
他の者ならほとんどお目にかかることができないミネバ・ザビだが、シャアは皇室警護官であるため直接見ている機会は多い。そしてニュータイプであるから万が一があり、それを知られた時のリアクションは未知数なのでプルシリーズの存在を知らせていないし、知らせる予定はない。
ちなみにシャアの恋人……妻となったナタリーもプルシリーズの存在を知らない。
……バレると困るからどこか私専用の基地でも用意するか?幸いMSはあるし……と、そんなことを考えている場合ではない。
今はデータ収集が優先だ。
「ところでシャアはどちらが勝つと思う」
「さて、実戦経験的にはカムジ准尉が勝っているが、イリアの訓練時間は……」
「シミュレータで5800時間、実機で200時間程度だ」
「5800時間に200時間だとっ?!子供になんという無茶なことを……」
ふん、シミュレータなんぞゲームとさほど変わらん。
そもそも研究というのは研磨して究めるという意味だ。つまり削りに削った先にあるものを求めること者こそ研究者だ。
子供相手でも無茶はさせる。もちろん後に続かないような無理はさせないがな。
「……この件、ハマーンは……」
「もちろん知っている。それにナタリー中尉……いや、この前大尉に昇進したんだったか……も知っているぞ」
そもそもハマーンも軽く4000時間をオーバーしているんだが……面倒だから言わないでおくか。
イリアとカムジ准尉の戦いは一言でいうと地味だった。
お互いが無駄玉を撃たず、ニュータイプでない者が見ると無意味な機動で意味の分からないタイミングで緊急回避をしているように見えるだろう。
もちろん私には意味がわかるが……ふむ、イニシアチブはイリアが確保しているようだ。
イリアもなかなか戦術というものがわかってきているようだな。
確かにカムジ准尉の方が技術的には上ではある。ニュータイプの素質的にも五分。
しかし、2つだけカムジ准尉に重荷があった。
1つは機体の差、ガーベラ・テトラに乗らなかったとはいえ、イリアが乗っているのはゲルググだ。いくらカスタム機であってもザクよりは高スペックだ。
そして2つ目はカムジ准尉は4連戦目ということだ。
いくら遊び感覚で相手していたとは言ってもニュータイプとの戦いはそれだけで疲労する。それに比べてイリアは身体強化によって体力は並の軍人を上回る上に万全の状態、つまり長時間の戦闘になると音を上げるのはほぼ間違いなくカムジ准尉の方だ。
「カムジ准尉もさすがだが、イリアもやる……」
その2人掛かりで倒せないあんたは化物だよ。シャア・アズナブル。
結果は……イリアの敗北となった。
私は途中で勝てると思った。イリアもそう思っただろう。
しかし、私が気づかなかった……気づかなければならなかったイリアの弱点が勝敗を分けた。
イリアの弱点……というか改めて考えると私、ハマーン、プル達共通の弱点とも言えるそれは……接近戦だ。
私達はシミュレータやお互いが訓練相手としている。
シミュレータはデータであるためパターン化されているが、その点は訓練相手が全員ニュータイプであるから射撃で決着がつかず、接近戦になることが多い。だからこそ弱点となるはずがない……と思っていたが身内同士の訓練では気づかない内にパターン化されていたようだ。
カムジ准尉の接近戦は型通りのものではなく、それに対応できなかったイリアは一刀両断判定により撃墜となった。
「次の課題が見つかったな」
しかし、接近戦の訓練というのはどうしても相手が必要だ。それに何よりオールドタイプでは相当な腕前がない限り、射撃だけで撃破してしまうし、接近戦でも負けることはない。
頭が痛いことだ。