第四百六十二話
「今帰った」
部屋に入って声を掛けるとすぐに銃を引き抜きこちらに向くハマーン閣下に手を上げて追加で挨拶をする。
ガルダ級の自動化させてサラダーンに帰ってきたのだが、エゥーゴとの戦いでは特に目立った被害はないようだ。
「――っ!ハァ……一体どこから侵入しているのだ。警備の見直しが必要か」
「対人警備である以上私には意味を成さないが、まぁジュドー・アーシタを何度も侵入させているのだから警備強化は無駄にならないだろう。今ここでハマーン閣下に何かあればネオ・ジオンは瓦解し、今度は指導者無きテロリストと化すぞ」
「ふん、私に万が一があろうとネオ・ジオンは絶えぬさ」
「それはミネバ・ラオ・ザビが影武者と入れ替わっていることか?一体誰に預けたのやら」
「なぜ知っている?!」
「知るも何も気配でわかるだろう」
「……ニュータイプ相手に影武者は難しいか。アレン代表が規格外であることを願うとしよう」
「相手の愚を願うのは自身が愚かであると認めることに等しいぞ」
「わかっている!」
影武者を全面に出した理由はなぜか――
「連邦との話し合いは不調か」
「あちらは時間を稼ぎたいのだろうな。サイド3だけではなく、サイドのいくつかをこちらに渡す用意があると言い出した」
「サイド運営の赤字をネオ・ジオンに押し付けるという可能性もあるぞ」
地球連邦がサイドを軽視しているのは経済的に負担になっている部分もあるだろう。
本来組織の長たる者は遥か先……とは言わないがせめて10年、長くて100年程度を見て施政を行わなければならない。
その点サイドへの投資は将来的には回収できる可能性が高い優良物件なのだが、民主主義とは衆愚政治と紙一重であり、民衆の人気取りを重視しすぎるあまりに近視眼的になることが多々あり、戦後に不穏分子によるテロに内乱と続いたことで政府そのものが弱り、目先のことを考えて負債としてネオ・ジオンの伸長を阻害することも兼ねて投げ捨てている可能性がある。
「……確かにその可能性はあるか、調べるように手配しておこう。しかし、十中八九ブラフだろうがな。本命は秘密裏に生産を始めたMS、ジェガンの数が揃うのを待っているのだろう」
「そのジェガンに関してだが、具体的な情報は手に入っているのか」
「既存の開発ラインとは別物のようで思ったよりも情報が入ってこない。手に入るのは偽情報ばかりだ。ああ、わかったことと言えば新たなMSを開発を始めたことぐらいだ。こちらはコードネームすら入手できん。今までにない連邦の動きに皆警戒している」
「だから先程から不穏な気配を発しているのかな」
ハマーン閣下はピクリッと眉を動いたのが目に入る。
「……そなたに隠し事は無理か。現在、上層部からはダブリンに向かってコロニー落としを行うことが検討されているのだ」
「やめておけ。コロニー落としという戦略そのものは否定しないが、大義がない。ジオン公国はスペースノイド救済というものがあったが現段階ではただ連邦が復調の兆しがあるから、などという弱腰で行う戦略ではない」
「…………ハァ、そうだな。わかってはいるのだ」
しばし互いを見つめ合い、ハマーン閣下が先に目を逸してソファに身を投げるように座る。
「しかし、やはり連邦が巨大であることに変わりなく、我々は小さい。大きな戦闘を2、3度敗れてしまえば成り立たない程度の組織でしかない。そしてここに来て件のMS……不安に思う気持ちはわからなくはないのだ」
「だからと言って眼の前のことだけを対処しても良いことはあるまい」