第四十八話
後日、カムジ准尉とシャアが模擬戦を行ったらしい。
4回やってシャアが全勝、さすが赤い彗星の異名は伊達ではない。しかも4回やった理由が戦闘時間が短いからというのだから圧倒的な技量だ。
しかもニュータイプ相手に射撃でヒット判定で勝利するとは……次元が違うな。
とは言ってもハマーンの成長を考えるとシャアを上回るまでそれほど時間は必要ないと予想ができている……もっともあくまで計算であって確実ではないが。
イリアやプル達に関しては経験はともかく、ニュータイプの素質や身体能力的には既に勝っているので時間の問題……のはずだ。
まぁ殺し合いというのは経験や身体能力、ニュータイプの有無だけで推し量れるものではないがな。
接近戦の経験不足をどう補うかを考えていたが、とりあえずダメ元でシャアに相談してみた。
すると近いうちにアンディとリカルド(Zでアポリーとロベルト)、そしてオールドタイプにしてはなかなか優秀だというラカン・ダカランを模擬戦の相手として借り受けることができるということになった。
カムジ准尉にもこちらにいる間にもう何度か戦ってもらうことも取り付けたのも行幸だ。
これが刺激になり、更に進化することだろう。
「それにしても……なんというか……手持ち無沙汰、だな」
設計図や新しい理論の構築などはもちろんしている。
クローンの研究なども順調と言ってもいい。
しかし……スクラップを弄らない、弄れないというのがこれほどストレスが溜まるとは思わなかった。
簡易コロニーに関しては設計図とスクラップの手配だけ終われば後は他の部署がやってくれることになったため、私の手から離れている。
本当はガーベラ・テトラにサイコミュを搭載したり、スラスターを増設したりと改造したり、ガンダリウムγの精錬設備の試作機を作ったりしたいところなんだがな。
「……やはりどこか小惑星、漁りに行くか?」
クローンの製造などという禁忌を行うにはアクシズでは不都合が多過ぎる。
幸いアクシズの近くには小惑星帯が存在する……というか元々アクシズはこれらの小惑星から採掘することとヘリウム3を運ぶ木星船団の補給基地としての役割だから不思議ではない。
だが、問題は移動手段や採掘、居住区画、食料などの物資や設備が全て無いことか……これだから辺境は……なんだから久しぶりに言った気がするな。
ちなみに資源採掘を主にしているアクシズが資源不足というのは、採掘した資源は輸出して生活物資や環境維持設備、軍需用物資などに変わる。
収入と支出で言うと支出が多い、つまり赤字であるとハマーンが言っていた。
実は私の開発は随分費用削減になっているともぼやいていた。既存の旧式化しつつあるMSを延命することに成功しているのは大きいらしい。
本来作業用のMSであるガザシリーズを戦闘用に改修しようとしているのもMSの旧式化の波に対応するためだ。
思考が若干ズレたが、つまりアクシズには現状余裕がない。
「ふむ、あるところから借りる……か」
労働力を提供して採掘する。そしてその一部を手にする。
幸い労働力は——
「お風呂入りたいーー!」
「取水制限でもう使えないと言っている」
「お風呂ーーー!」
「……プル煩い」
ここにいる。
というわけで知り合いのお姉さんに相談したところ、引き換えに抱っこさせろという特に問題のない対価で快く船と作業用MSを貸してもらえた。
あまりプル達の露出を増やさないように(服装じゃなくて情報的な意味で……わかってる?これは失礼)私が船を操り、プル達が作業用MSで採掘を行う。
ミノフスキー粒子もない以上、自動操縦も可能で浮遊する岩などに当たる心配もなく、暇を持て余した私は設計図を書いている。
案外これは天職かもしれない。
プルシリーズを増やして会社を起こすのもいいな。
普通の人間と違い、常識がないのでその気になれば食事は栄養剤、服は着回し、起きている時間全て労働、そして無給なんていうブラック企業真っ青の労働力が確保できる……が、私としては大事な作品を模造品や量産品にするつもりはないがな。
「とりあえず、こんなところか」
出来上がったのはガンダリウムα、β、γを用いた複合装甲を採用したザクの後継機、ザクIII(仮称)だ。
……あれ?ガンダリウムγを使ったMSのはずがいつの間に……まぁよくあることだから気にすまい。
問題は出力が思った以上に必要になったり、既存のMSとは部品の互換性がないことだ。
GP02のジェネレータでは出力不足であるため新しく開発しないといけないな……力任せにジェネレータを2つ搭載すればできなくはないが、さすがに重量が重くなりすぎる。
しかし、さすがにジェネレータ開発まで手がけるのは無理があるのでハマーン経由で兵器開発部に作らせるとするか。
部品の互換性に関しては案はある。
連邦のMSデータを見た思いついたのだが、コア・ブロック・システムというものがある。
それはパイロットの緊急脱出装置であったが、これは結果的にはコクピットのコスト削減になっていると思う。
もっともこのコア・ブロック・システムの核であるコア・ファイターに核融合炉を搭載することでコストが跳ね上がっているが、私が考えたのはMSの四肢を共通規格化し、接合を簡略化してしまうことだ。
そうすれば生産コストが抑えられ、整備員の教育過程も減——
『アレンパパっ!いっぱい取れたよ!』
『私の方が多い』
『ふん、2人ともお子様だな』
はしゃぐプルとプル3に比べてクールなプルツー……だが、自分の成果を見えるように運んでくるあたりやはり褒めてほしいのだろう。
可愛い作品達だ。