第四百七十一話
「リ・ガズィ、メタス、ガブスレイ、ハンブラビ、可変機がこちらに向かってきます」
「……?あ、メタスの中にメタス改が混ざってる。データ修正する」
その報告で母艦級の中はより一層騒がしくなる。
「可変機か……ならキュベレイを3機、レナス2機を回せ。わかっていると思うが殲滅よりも抜かれないことが重要だ。主軸はキュベレイでレナスはフォローに徹しろ」
可変機は扱いの難しい上に、通常のMSよりも高機動であることから単独もしくは少数で動くことからパイロットは選りすぐりされることが多い。つまり精鋭である可能性が高い。
シローはレナスだけでは対応が難しいだろうと考え、手持ちの戦力少ない中で3機もキュベレイ・ストラティオティスを当てるように指示を出す。
母艦級の最大の弱点は母艦級そのものが危機に瀕した場合、レナスを操縦するプルシリーズが身の危険に焦り、操縦を乱す可能性が高く、致命傷となり得るとアレンは危惧して注意喚起している。
「いい加減ミサイルが面倒だな。防衛ミサイル群までファンネルは届くか」
要塞というだけあって防衛網は厚く、飛来するミサイルの数があまりにも多い。
ファンネル、テンタクルによる迎撃こそ成功しているが、MSまで投入されたら万が一もある。
「届かないことはないけど、結構消耗しちゃうよ?操縦している子もファンネルも」
ファンネルやレナスを操縦するプルシリーズを管理しているプルシリーズが言う。
「長距離はキツイか……帰ったらアレンに何か対策を考えてもらうか」
「今は耐える時だ。情報ではコンペイトウの戦力はエゥーゴ残党にティターンズ残党、ハマーン閣下と相容れずネオ・ジオンから離反した者や連邦のやりかたが気に入らず離反した者で構成されている分かりやすい寄せ集めだ。こちらが防戦一方となれば勝手に崩れるだろう」
イリアに言わせればミサイルを尽く迎撃しているのだから恐怖を感じても嘗めるなど愚の骨頂なのだが、軍を統率するのは難しいことをよく知っている。
精鋭部隊として調えられたティターンズですら規模の拡大したことで全体で見れば精鋭とは程遠い存在となった。
それが4つの組織の寄り合いとなれば実力も理念も何もかもがバラバラである。
「いや、既に崩れてきているな」
練度の足りない者達が手柄欲しさに身の程を弁えずに動き出す。
パノプリア、キュベレイ・ストラティオティス、レナスを半包囲して被害を出しながらもなんとか抑え込んでいるというのに半包囲を崩して母艦級に向かい始めたのだ。
パノプリアよりも母艦級の方が落としやすいとみた無能が割りといたらしい。
「味方の射線を塞いでいたら世話がないな」
いくら宇宙という広い空間であろうと母艦級という点に向っている以上は射線は限られ、ミサイルとMSの射線が重なるのも不思議ではない。
そして、さすがに邪魔だからといってフレンドリーファイアをするわけにもいかず、それを回避するためにミサイルは軌道を直線的なものが多かったが曲線的なものに変化する。しかし、ミノフスキー粒子は戦闘濃度である以上誘導ができるわけでもないため、そうなれば命中精度が下がるのは当然で、その分だけ母艦級に余裕が生まれる結果になっている。
もっともミサイルの対処をしていたのは母艦級だけであってキュベレイ・ストラティオティスやレナスは対応していなかったのでまだまだ余裕があるのだが――
「よし、出撃しているレナス全機で迎撃だ。キュベレイはまだ待機。レナスの追加生産はどうなっている」
「1分後に10機ロールアウト予定」
「なら多少の被害は許すので撃破を優先。レナスの生産はそのまま続けるように……殺さないように戦うのは随分と負担が掛かっているな。戦闘時間が伸びたらせっかく殺していないのに死んでしまう」
殺していいならもう決着が……というほどではないにしても大勢は決している頃だ。
しかし、不殺というのは思っている以上にハードルが高いものだった。
MSの破壊、無力化は問題ではない。いや、手間がかかるという意味では問題だが、むしろその無力化した後のパイロット達を配慮する方が大変なのだ。
脱出カプセルが彼方へと飛んでいったり、大気圏突入コースに乗っていたり、流れ弾に当たりかけたり、ミサイルの破片が飛来したりと死が間近で踊っている状態だ。
それを調整して戦闘を続けなければならないのだから通常の戦闘よりも神経を使って当然だろう。
「作業用ポッドも無人化させておけばよかったな」
「そうですね。救助作業と平行して戦闘すればこのような面倒な戦い方をしなくて済みました。ですがそれは後で考えましょう」