第四百七十四話
「ハァ、面倒だ」
指揮官は軽く拷問に掛けたが降伏することはなかった。
そのせいで司令室にいた人間は指揮官に従うと覚悟を決めてしまった。
おかげでコンペイトウの制圧を行わければならなくなったし、外の戦闘も戦意喪失するまで叩かなければならなくなった。
さすが孤立している中でも組織を崩壊させずに保てただけのことはある。
動揺を誘うために拷問を見せていたが、逆に司令室にいた人間の腹を括る手助けをしてしまった。
やけくそ感もあったが。
アレン人形を20体投入しているとはいえ、ガルダ級の時とは規模が違う。要塞にいる人間を全て狩らねば終わらない、しかもその後に治療までせねばならないとなるとどれだけ手間が増えるか。
急増したプルシリーズの教育のためにアレン人形の投入を削ったことが仇となったな。せめて50体あれば楽だっただろう。
「殺さずに捕らえるとなると四肢を切り落とした方が無難だが……」
私が殺すよりもフレンドリーファイアで死なれる可能性が高い。実際うっかり屋さんが私に気づいて手榴弾でトラップを仕掛けようとして自爆した。幸い手榴弾は宇宙仕様の低威力のもので即死を免れ、近くに人形が居たことで命を繋いだが制圧作業中に治療するなど無駄な作業をせねばならないとは。
こういう事故を防ぐためにも素早く無力化するに限る。
「しかし、私だからいいがオールドタイプの制圧戦はなかなかに骨が折れるな」
生身で、どこに敵が潜んでいるのかわからず、罠もわからずに白兵戦など少なくとも私はやりたくはない。まぁそもそも私は研究者なのだが。
「誰だ。この無能としか言えない布陣を敷いたのは」
クロスファイア、十字砲火とも言うが銃が生まれてから使われているもっとも有効な戦術だ。味方が射線に入らず、敵を集中して射つ。つまり先程いったフレンドリーファイアを防げるわけなのだが――
「袋の鼠だ!撃て!」
「撃て、ではないと思うのだが――」
こいつらは、今は、人形を通路の『前後』で挟んでいるのだ。
全員を捕虜にするという私の目的には確かに効果絶大だが、フレンドリーファイア前提のような布陣は多少非道な行為も厭わない私でも躊躇するぞ。
「ちっ」
上意下達とはいえ本当に躊躇なく撃ってくるとは――軍人というのは罪深い生き物だな。
しかし、これだけまとまった数のサブマシンガンともなるとさすがにきつい。
弾くだけならできるが、問題は跳弾だ。弾くのに弾道計算をするのだが、数が多すぎる。
やはり人形の単独行動は面倒が多いか。
少し本気を出すか。テンタクルの連結を解除、銃弾と接触する角度調整、跳弾を武器へ――
「ぐあ」
「いっでー?!」
「ぎゃあ」
狙い通り武器を弾くことができた。後は四肢を切断して……終了。
さて、次行くか。
テンタクルに付着した血を払い落として足を進める。
「……とりあえず2体1組で動くか、効率が悪いが……幸い、外は順調に片付いているし、MS部隊が全滅すればミノフスキー粒子の散布をやめ、全滅している姿を中継すればさすがに心が折れるだろう」
ただ、たまに宇宙人が攻めてきたとかいうわけのわからないことを叫んでいるやつもいるんだが……本気で言っているのか?いや、読み取った限り本気なんだが。