第四十九話
簡易コロニーが完成した。
そして同時期に地球圏のジオン残党ことデラーズ・フリートの残党とアクシズ派遣艦隊が帰還した。
アクシズの人口が増えるので財政事情的には厳しいのだが、星の屑作戦の成功もあってアクシズは歓迎ムードである。
その作戦がティターンズという反スペースノイド組織を生み出したことは気にしていないようだ。
元々アースノイド、スペースノイドという呼び方が差別なのだから今まで水面下だったのか表面化しただけだから気にしていないのだろう。
『我々は連邦に一矢報いることに成功した。しかしジオンの栄光は未だ曇ったままである!その栄光を取り戻すため、今を耐え忍び、再びスペースノイドが一致団結した時こそ我々が立つ時!』
これはデラーズ・フリート残党の代表、アナベル・ガトー中佐の演説だ。
声と雰囲気で好戦的な発言に聞こえるが、言っていることはハト派……というわけではないが、今すぐに開戦すべし、などという愚かなものではないようだ。
もっとも——
「ハマーンが予め根回しをしていたんだろう?」
「さすがはアレン、よくわかったな」
ふん、戦時中でもない時にコロニー落としなどという核爆弾を落とすよりも非道なことをやってのけた者達がそう簡単に考えを改めるものか。
「どうやらガトー大佐は自身の行った作戦の行く末を見届けたいようだな。もっともティターンズという反スペースノイドなどという組織ができた時点でほぼ確実に近いうちにタカ派となるだろうがな」
連邦ももう少しマシな政策をしてくれれば平和に……いや、平和になったら私も困るのだがな。
開発、研究者としては冷戦状態が1番美味しい状態だ。
「それでGP01の開発をしていたという者はどうだった」
「ああ、彼女か……残念ながら早々にアナハイムに引き渡すことになった。その代わり、これを手に入れた」
まぁ民間人な上に重要な取引先であるアナハイムの社員となれば、好き勝手するわけにもいかんか。
さて、置き土産はなんだろうな。
「……ほう、GP01の設計図とOSデータ……GP02のものまであるのか」
しかも、GP02のものに関してはデラーズ・フリートから送られてきたものとは明らかに違っているのでその開発者なりに改善したものなのだろう。
「……これは……GP03の設計図、か?」
「ああ、驚いたことにアナハイムがたかが1人の開発者のためにこのようなものを出してきたのだ」
……これは、アナハイムは本格的に連邦のMS開発から締め出されているのだろう。
そしてその中心であるティターンズを打破するのを期待していると思って間違いない。
こちらとしてはありがたいので有効活用させてもらうがな。
……にしてもなんだこの武装は、こんなものを使っていたらアクシズの資源は干上がるぞ。
採掘作業を始めて1ヶ月、結構な量の資源が溜まってきた。
中には希少金属もあってなかなかの成果だと言える。
プル達も採掘作業を気に入ったらしい……子供がやるようなことではないが、それはそれだ。
今回のことで物々交換ではなく、自分達の独自ルートで資源を確保できる方がいいということがわかったのでこれからは自身で採掘を続けていこうと思う。
「というわけで自前で船が必要だな。いつまでもお姉さん(名前は覚えていない)に頼るわけにもいかん」
「船の製造自体も問題が有りますけど、まずは組み立てる場所とかありませんよ」
私が専有している倉庫は3つで、その内1つはMS程度なら宇宙に出られるのだが、流石に船ともなると無理がある。
「それはハマーンに頼るとする」
「……いいのかなぁ」
と、アクシズの最高権力者を良いように利用しようとする私にスミレは悩んでいるようだが……いいのだ。
代金(スクラップ)の支払いが遅れているのはあちらなのだからそれぐらいは融通してもらわねば困る。
船……私だけの船か……いい響きだ。
……いかんいかん、黒歴史の頃に封じた感情が呼び覚ますところだった。
とりあえず、サイコミュとエロ触手は標準装備だ。(封じれていない)
後、変形して人型……つまりMS形態になれるようにするのもいいな。(やっぱり封じれていない)
それにドリルはロマン、これは絶対だ。(完全開放状態)
「資源にそれほど余裕ありませんよ。本当に最低限の船しかできないと思います」
……仕方ない。次回に回すとするか。
「……諦めないんですね」
「研究者がこの程度で諦めてどうする」
私が目指すのは戦ってよし、住んでよし、MSから戦艦まで製造できる船だ!(既に目的が変わった)
もちろんクローンは当然だ。
「それは船じゃなくて基地ですから!それ、もう立派な基地ですよ!」
ふむ……そういえば私の専用機を用意しろ、という話があったが……専用機としか言われていないからMSではなくて戦艦でもいいのだろうか……いや、いいに決まっている。
「よし、なんだか良いものができそうな予感がする」
「……なんだか大変なことになりそうな予感がします」
スミレが言っている意味がわからないな。
「すまん、アレンが言った例の整備計画は無理なようだ」
ハマーンが苦々しそうにそう告げた。
整備計画とはMSの四肢を共通規格化して取り付け取り外しを簡単にできるように簡略化するというものだ。
これによって必要部品を減らすことができるし整備員の育成も簡単になると以前に語ったが……実は思いついてはいたんだが提案するにはある障害があり、無理だろうと踏んでいたが案の定却下されたようだ。
「やはりか……それで、文句を言ってきたのは兵器開発部か?」
「その通りだ」
兵器開発部、私と同じく兵器を開発している部署だが、こちらはジオン公国の時代から正式な組織である。
その兵器開発部がなぜ整備計画案に反対なのかというと……私の案が気に入らない……というわけではなく、実はこれ、普通に企業でも起こることなのだが、簡単に言うと予算の削減を嫌ってのことだ。
共通規格化というのはかなり効率的だ。しかし、効率を良くし過ぎると何が起こるかというと必要予算の削減だ。
実際四肢の開発を行わなくなると30%以上の削減になる。だが、予算というのは減るのは容易いが増やすのは至難の業だ。
だからどの部署も予算が減らされるような要素があるものは嫌う性質にある。
……とはいえ、本来こんな理由で上層部が納得するはずがないのだが、兵器開発部というのは……いや、開発者、研究者というのはなかなか厄介なもので、軍人の代わりはいくらでもいるが開発、研究者は代わりは存在しない。
開発者研究者にはそれぞれがそれぞれの発想、想像力がある。私やスミレは得意分野が似通っているが、それでもかなり違いがある。
結局何が言いたいかというと、開発研究者は機嫌を損ねるとかなり面倒なことになるのだ。
私だってニュータイプ研究やクローン研究をさせてもらえないとなった場合、こんな辺境にいる理由はほとんどない。つまり、最悪は居なくなってしまう……いや、連邦のスパイに変貌する可能性がある。
もっとも距離という壁がある以上、デラーズ・フリートをテロリスト、コロニー落としは事故という小さめの存在にして握り潰した連邦に、アクシズの所在が分かった程度でこんな辺境にやってくるかは疑問だがな。
以前来た連邦軍はエンツォが誘導したため例外だ……例外なのだがよく来たな。本当に。
「前途多難だな」
「全くだ」