第四百八十一話
「一体どういうつもりだ。この重要な局面で秘匿通信とはいえ、そちらから連絡をしてくるなど……なんのために身を潜めていると思っている。シャア」
ザビ家の正当なる後継者であるミネバ・ラオ・ザビはネオ・ジオンの柱である。
そうである以上はミネバを失うわけにはいかないので自分がネオ・ジオン独立を勝ち取ることができたとしてもミネバに外の世界を見せるというのは将来のためになるし、敗れたとしても後に繋がるだろうとグリプスでの戦いで密かに回収したシャアに託したのだ。
にも関わらず、この正念場とも言える時期に人を介さず、しかも急ぎで会うこととなったため、隠密性を優先したことでこの場所の安全性は高いとは言えないのが現状だ。
「悪いな。重要な話だからどうしても直に話をしたかったのだ。ハマーン」
「それはこの短期間に少し老けたことに関係しているのかな」
「さすがだ。察しが良くて助かる」
日頃から演技をしているような喋り方をするシャアにしては珍しく、心から安堵したような色が見えたハマーンは更に追撃しておくことにした。
「それは別の世界からやってきたなんていうことではないだろうな」
声こそ出さなかったが大きく動揺したのが目に見えてわかる。
そう、今ここにいるシャアは、この世界のシャアではないのだ。
「なぜそんな突飛のない――」
「では偽物のシャアとして処分された方がいいか。既に本物の所在は確認してあるぞ」
「……」
「それに既に別の世界からの来訪者とは会っている」
「……言っている意味がわからないのだが?」
「自分がその体現者なのだから他にもいて不思議はないということだ」
正直、非常識な存在はすでにお腹いっぱいなのだが、と思うハマーンだったが、それは叶えられなかった。
「私は93年に5年後に地球に住む者を粛清すべくネオ・ジオンを率いて戦いを挑み、敗れ、いつの間にかこの時代で目覚めていた」
「5年後に……つまり私も敗れたのか」
ハマーンが勝っていたならシャアがそのような行動をしない……とは言えないが、もしハマーンが勝利した世界であったならハマーンの意に沿わない行動である可能性が高く、そうであるならこの世界に来てハマーンを頼ろうとはしないだろうと考えたのだ。
「その通りだが、平然と話を続けるのだな。普通は信用しないものだろうに」
「先程言った別の来訪者に随分鍛えられたのでな」
もう1人の自分に会った時ほどの衝撃はない。
しかも、年齢は自分より上なのに見た目は自分より若いのだからその衝撃は凄いものだった。もちろんアレンも同レベルの衝撃を受けたが。
いくつか情報共有を行ったところで――
「どうやらシャアがいた世界はアレンは存在しない世界……この世界の未来に近いようだ」
「アレン?」
「別世界から来た人間で、我々と同じ時代を生きたにも関わらず、世界に名を轟かせた」
「そのような人物は知らないな」
「となるとやはりこの世界とシャアの世界は近いものがあるのだろう。アレンの記憶の共有では確かに名を馳せていた。というのも私ともシャアとも繋がりがあったのだが、シャアには覚えがないのだろう」
「ああ、全くないな」
「なら間違いなくアレンがいない世界なのだろう」