第四百八十六話
「申し訳ありません。例の人物がネオ・ジオンと合流させてしまいました」
「これは大きな失態ですぞ。せっかくの未来の情報だけでなく、タイムトラベルの存在まで我々だけで独占できなかったのは大きな損失だ」
「しかもそれがダイクンの遺児とは……早く捕縛、最低でも始末しなくては万が一にもタイムトラベルの実現などされては世界はやつが手にすることになるぞ」
ジオン公国を起こしたザビ家はいい面もあったが、やはり悪い面が大きく残っているため、スペースノイドにとっても賛否が分かれる存在である。
しかし、ジオン・ズム・ダイクンはスペースノイドの希望として立ち、そして汚名もなく、亡くなったことで英雄となり、その息子であるキャスバル・レム・ダイクンもまたエゥーゴの旗頭としてスペースノイドのために、と戦い表向きは戦死した。
つまりダイクンの名は未だにスペースノイドにとって希望となるのだ。
そんなダイクンの遺児が夢のような技術を手にしたとあっては本人が望まずとも周りが放っておかない。
「スペースノイドがまた調子に乗って反乱もありえますな」
「やれやれ、まだまだ混乱は続きそうですなぁ」
地球連邦の政治家達はため息を漏らす。
自分達が元凶となっているにも関わらず他人事のような態度である。
「しかし、ネオ・ジオンもスペースノイドも一枚岩というわけではないからな。現にネオ・ジオンはスペースノイドの支持を得られているかといえばそうではないようですし、例の工作もうまく行っているのでしょう?」
「いい調子ですよ。ネオ・ジオンの過激派は身の程を知らず、地球をも支配しようと夢描いているようで、少し煽った程度でよく燃えています」
「バカな奴らだ。ティターンズとエゥーゴが壊滅状態であろうと地球連邦軍はほとんど健在、それに再編もそろそろ終えるしジェガンの配備も既に要所では完了した。次は……やはり宇宙軍か」
「そうなるでしょうな。ネオ・ジオンの過激派からはコロニー落としを計画していたと報告が上がっていますし警戒しておく方がよろしいでしょう」
「ハァ、これだから素人は……強力な兵器など見せ札として使い、交渉することこそが政治というものであろうに。実際に使ってしまえば互いに引っ込みが付かなくなって悲惨なことになることがわからんらしい」
別世界の来訪者が現れるまでは宇宙の割譲やむ無しと本気で検討していた人間達の会話とは思えない発言である。
「ただ、ネオ・ジオンの小娘が過激派を抑え込んだのは意外だった。それだけあの部隊に自信があるということか、はたまた政治がわかる人間なのか」
「ミソロギアとかいう部隊か……確かギリシャ語で神話という意味だったか、大言甚だしい」
「とはいえ、コンペイトウが1日と掛からずして落とされたのも事実だ」
「あの忌々しい大気圏に居座っている部隊もMSからして同一部隊とすると随分と強い部隊が多数いるようだな。一体どこから湧いて出てきたのやら」
「案外別の世界から訪れたのかもしれませんよ」
「そんな存在がポンポンと現れるなど悪夢でしかないわ」
他愛も無い会話がまさか真実だとはこの場にいる誰もが思いもしなかった。
「捕虜の件はどういたしますか、これ以上引き伸ばすならマスコミに発表すると通達がありましたが」
「致し方ない。本格的交渉に入るように指示するとしよう。さすがに本気でコロニー落としをされるのもあの大気圏の部隊も好き勝手させるわけにはいかんしな」
「そういえば宇宙にはアムロ・レイがいるのではなかった。やつに叩かせれば良かろう」
「大気圏を抑えられているのにイラつくのはわかるが落ち着け。我々が復権はまだ少し準備が必要だ。ネオ・ジオンの対処はエゥーゴに任せ、せいぜいご機嫌を伺うとしよう」
「だが、こちらが未来のアムロ・レイを確保しているのを知っているのだぞ。先に動かれるかもしれんではないか」
「その時のために過激派を煽っているのだ。もし未来の情報を得て動くならば主導するのはあの小娘だ。調べた限りキャスバルにネオ・ジオンで信用できる権力を持つ人間など他におらんようだからな」
「なるほど、ハマーンが動けばあの青二才が鈴となって知らせてくれるわけですな」
「うまくいけば首を取ることもあるだろう」
残念なことに地球連邦はこの時期の未来情報は曖昧な部分が多かった。
未来のアムロ・レイはティターンズ残党の討伐に追われ、それが終わればロンド・ベルの設立で忙しくなり、しかも地球連邦はネオ・ジオンに対して完全降伏に近いような流れであったことを隠すように第1次ネオ・ジオン抗争そのものを闇に葬ったことでアムロ・レイが詳細情報を手に入れられなかったのだ。