第五十話
とりあえず船はできた。
今回は、今回はっ!妥協して普通の船を作った。
スミレが言っていたように資源が足りないから仕方ない……かなり不本意だが。
ただし、私らしく船の装甲以外は全てゲルググの部品と互換100%にしておいた。
これで整備用の部品調達には苦労しないはすだ。
本当はザクIIのものにしようかと思ったが、ザクIIは既に旧式化が進みすぎていて、GPシリーズのスペックからして改修したとしてもかなり無理があることがわかっている。
そういう理由でザクIIからドムやゲルググといった一年戦争後期に開発されたものへと移行していくことになっている。
ちなみに次世代機に移行しないのはまだ次世代機は試作段階であり、次世代量産機は決まっていない。
今のところ練度の低い民兵を多く徴兵することから簡易武装した作業用MSガザB(Aは純粋に作業用)を砲撃仕様に変更したガザCが濃厚らしいが……あれは砲撃能力はともかく、スペック的に次世代ではないだろう……低コスト機ではあるがな。
それはともかく、私が自身の為に設計しただけあって船はかなり過ごしやすい環境となっている。
外見はまんま民間貨客船、ジオン公国が一部で運用していたというヨーツンヘイムと同じであるが積載量を若干減らして居住空間を増設して研究設備も充実させた。正直、スクラップのストックがない状態だとこちらの方が居心地がいい。
ちなみにクローン製造設備は載せていない……というか新たに設備が用意できなかった。
クローンを製造しようなどというキチガイは私以外にはそれほどいないので需要がないのだ。
後は武装はデブリ対策用のバルカンやサイコミュが載っている程度特に他と目立ったものはない。
「普通の船にサイコミュなんてありません」
「しかし、サイコミュを載せることで精密な船体制御を実現できたんだぞ。何よりなぜか知らないが操作するのに艦橋にいる必要がないから便利だ」
「……本当になぜなんでしょうねー」
うむ、私の思念がサイコミュに届いているようなのだがこのような現象が起こるはずはないのだが……ニュータイプはまだまだわからないことが多いな。
しかし、船内どこでも操縦できるのはなかなか便利だ。もっとも実際操縦するよりも精度は落ちるがな。
ああ、そういえばこの船には他にない機能があったな。
それは……耐G機能だ。
それはもう徹底した。私とスミレで徹底した。2度言うほど徹底した。
おかげで戦闘機動のMSが旋回する程度のGでは何も感じないほどになったぞ。
「そのせいでデブリに当たっても揺れ1つ起きませんけどね」
「だから接触したら警報がなるようにしただろう」
「それはそうですけど……そういう問題ではないと思います」
まぁ資源不足でこの程度で終わってしまったが、少しは満足のできる船ができたな。
ただ……作業用のMSはガーベラ・テトラしかないことが問題だな。
「最新のMSで採掘なんて……」
「私も不本意だが仕方あるまい」
しばらくはお姉さんに作業用MSを借りる必要があるだろうな。
プルシリーズ、4、5、6を覚醒させた。
採掘で人手が足りなくなったのもあるが、早くから経験を積ませた方がより成長するだろうことと資源の採掘によって安定した収入を得られることから養うことができると踏んだからだ。
今まで私自身が発明品を売って稼ぐという不安定極まりない状態だったためプル達3人とスミレを養うだけで精一杯だった。
資源を得られるようになってからは需要過多であるアクシズでは生活が困らなくなった。
「こんなに商売とは簡単なものだっただろか」
「アクシズが特殊なだけですよ」
それもそうか。
しかし、こんなにボロい商売で資金を得られるならもう少しそちらに傾けても良いかもしれない。
「……農業用コロニーでも作るか」
「土がありませんよ」
「……そうだったな」
空気や水はなくなれば死活問題であるため、備蓄しているだろうからそれを買うことができるだろうが土は最悪なくても問題ないためあまり備蓄はないはずだ。
そして、この前デラーズ・フリートの残党を受け入れるために簡易コロニーを作ったことで更に余裕はないだろう。そもそも土が足らずに一部は土風の発泡ウレタンで誤魔化したぐらいだからな。
「それよりこれはなんですか!」
「これか?ガンダリウムγ……の失敗作、ガンダリウムδだ」
まさか本当にδができるとは思いもしなかった。
ガンダリウムδはαより軽いγだが、それを上回る軽く、耐久はγよりもかなり劣るが比重的にはザクなどに使われている超硬スチール合金より頑丈な代物だ。
軽いが脆い、でもそれなりに硬く粘りがある。
しかしMSの装甲にするにはガンダリウムγに劣る、つまり失敗作だな。
「失敗作って……これ!ビットに使えますよ!」
「……なるほど、盲点だった」
どうも私は視野が狭くなっていたようだ。
ガンダリウムδを使えばビットの重量を減らすことができる。つまり内蔵させる推進剤も少なくて済み、サイズも小さくすることができる。
「ふむ、これはそろそろ本格的にハマーンの機体の完成も間近か」
「ええ、機体の問題はほとんどクリアしました。後はOSとサイコミュの調整だけですね」
もっともそれが1番難しいのだがな。
ハマーンの機体、キュベレイはハイエンド機な上に鋭敏過ぎるため、シミュレータでは通常オールドタイプはもちろん、シャアやカムジ准尉ですら悪戦苦闘するほどだった。
まともに操縦ができたのはハマーン、イリア、ヤヨイ・イカルガの4名ぐらいだった。プル達はギリギリ及第点程度だ。
シャアやカムジ准尉に関してはサイコミュへの適正の問題で上手く扱えなかったことによるもので技術的な問題ではない。どちらかというとサイコミュ抜きでそれなりに動かしていたという事実の方が問題だったりするのだが……。
ただし、これらの評価はテスト機としてはという枕詞が付く。
実戦に出すとなるとまだトゥッシェ・シュヴァルツやアレン・ジールなどの方が活躍することになるだろう。
「ビットと言えば新型ビットはファンネル(漏斗)に見えるな。新しい名前としてファンネルはどうだ」
「……そのまま過ぎませんか?」
「わかりやすくていいだろ」
「まぁいいですけどね……覚えやすいですし」