第四百九十三話
修学旅行は移動はガルダ級で行われ、目的地に辿り着けばプル達は空をダイブして触手を使って着地するという非常識な方法が用いられた。一応地球も活動範囲に入ったことで降下作戦も視野に入れての訓練も兼ねたものとなっている。
ちなみに着地に失敗して足を複雑骨折したプルは後日、厳しい訓練を申し付けられることになった余談だろう。
「ところでお爺ちゃん。この予定表に書かれてる潜入工作体験って?」
「文字通り、潜入工作をしてくるそうだ。潜入先は連邦のMS研究所の1つだ」
「やっぱり観光巡りだけじゃ終わらないよねー」
「アレンパパ厳しい」
「でも私達が最初だからまだ楽かもよ。これ、後続の子達も似たようなことやるだろうから」
「あー、まだ警戒されてないからボク達が1番難易度が低いってことか。んでボク達が下手打ったらめっちゃ警戒されて後の子達にめっちゃ恨まれる、と」
「これは気を引き締めなければなりませんね」
「んじゃ、念入りに段取り組んでおこうよ!」
「賛成ー」
さすが訓練されたプル達。
アレンの理不尽な修学旅行内容でも受け入れ、後の続くプル達のためにと奮起する。その姿にジャミトフは複雑な感情で見守る。
(ティターンズという組織で兵士を使い捨てにしてきた自分がプル達に対して孫のように思い、全員無事に帰ってきて欲しいと願うのは勝手が過ぎるか?……こんなことを考えるなど私も平和ボケしたものだな)
ミソロギアは戦闘行為を断続的に行っているがその強さで圧勝し続けたこと、ジャミトフ自身は内政重視の立ち位置となったこと、世界が複数あることがわかった上に元の世界に帰還できるかも不明なため、今まで抱いていた思想に意味がなくなったことなどが重なり、すっかり組織の重役というよりミソロギアという家族のお爺ちゃん的立ち位置になってしまったと自覚する。
「アレンは新技術の少ないこの世界にどの程度留まるつもりなのだろうか」
それは以前から疑問に思っていたことだった。
時渡りは時間の逆行と考えていたが、アレンの存在しないという世界という小さくも大きい違いを辿った世界、パラレルワールドだった。
ならば次はもっと違った世界に、もっと違う技術を手にすることができるのではないか、そう考えることが自然だ。
「この世界なら安全に過ごせるのだがな」
すでに戦いへと首を突っ込んだが、前の世界よりも疲弊しているこの世界でならミソロギアは圧倒することができる。
世界征服は無理だろうが、宇宙を支配することなら可能だとジャミトフは思っている。もっともそんなことをしては肝心のプル達を犠牲にする可能性が高くなるためそれを願うわけではない。しかし、武力で安全が買えているこの世界から未知の新世界へ向かうのはリスクが高すぎると考えるのは当然のことと言えた。
「でもアレン父が望むなら――」
「例え死んだとしても――」
「私達が存在意義で――」
「喜びだから」
ジャミトフの思考を読み取ったプル達の言葉。
これを聞いたのは1度や2度ではない。
そう教育されているのだから当然といえば当然だ。しかし、その度にジャミトフの心に重い何かが伸し掛かる。
「大丈夫だよ。私達はそう簡単に死なないから」
「……このタイミングでそのような台詞を言うでない」