第四百九十四話
フラグというのは叶わなくていいことにこそ発揮されるもの。
潜入工作は成果こそあれど失敗となった。
「ううぅ、痛いよ~」
「腕の1本が消し飛んじゃってるから痛いのは当然よ。もうちょっとでガルダ級だから頑張って」
「ごめんね……ボクの反応が遅かったから……」
1発2発程度の手榴弾なら対処できたが、それでは効果がないとわかった連邦兵はまとめて10以上の手榴弾を投げられ、その中で1人のプルは回避行動が遅れてしまい、それを庇っての負傷である。
ちなみに普通なら上半身の半分は確実に吹っ飛ぶ威力だったのだがアレンに魔改造されているプルシリーズだからこそ腕1本で済んでいるのだ。
更に言うと腕1つと言ったが、正確には肩からなくなっている上に広範囲に火傷を負っている……それこそ死んでいても不思議ではないほどだがプル達にとって火傷なんてものは包丁で手を切った程度、というのはさすがに言い過ぎではあるが大怪我の内に入らない。
「422、謝らないで。悪いのはクシャミなんてして発見された私なんだから!422に謝られたら私……どうしたらいいのかわかんないよ!!」
元々潜入が発見される原因となったのはコントかジョークのような1つのクシャミだった。
前にも言った通り、プルシリーズ達は地球の環境に慣れておらず、潜入するためにはパイロットスーツは目立つため着用していなかったために起きた事故である。
そしてプル達にとって足枷となったのは地球の重力だ。
これが無重力化なら問題なく手榴弾を処理していた。身体が無重力であることに慣れすぎていて反応が一歩反応が遅れ、そして1番の問題が日常的に身体の一部と言っても過言ではないテンタクル(触手)である。
アレンがどれほど優秀であっても宇宙同様の機動性を保つことは不可能で、身体よりも影響が大きい。実際テンタクルで処理しようとして間に合わずに身体が反応して庇うことができたのだ。
「ごめんね。痛がって」
「そうじゃないよ!」
「今意地を張るところではないぞ。それにそろそろ薬が効いてきて楽になってくるはずだ」
「あ、本当だ。少し落ち着いてきてる?」
「ガルダ級に帰ったらジャミトフ爺さんに一言言ってからカプセル入りだな。めっちゃ動揺してたぞ」
昔から重役を担ってきたジャミトフは表情を取り繕うのは日常であった。
ミソロギアではニュータイプがほとんどであるためあまり通用しないが、それでもある程度は意味があった。
しかし、その標準装備となっている取り繕いすらも何処かへ置き去りにして見るからに動揺する様子をプル達は初めて見て驚いていた。
「わかった。でもなんて言おうかな。こんなの習ってないよ」
「う、それは私もわからん」
「だよねー」
重かった空気は幾分か軽くなったが、そこで痛みとは違う苦痛の表情を浮かべ、声が漏れる。
「失敗しちゃったね」
「…………そうだな」
失敗したのは負傷したプルのせいではない。だが、軍というものは連帯責任である。
故にこの場にいる全員が等しく失敗したのだ。
「アレンパパはなんて言ってた」
「さらなる努力を、だってさ」
「そっか、次の機会があるんだ」
「そりゃあるさ。だってアレン父さんは厳しいけどさ。結局誰も見捨てたりしたことないじゃん。死にそうな目にはあうけど」
「そうだね。次は頑張ろうね」
察知されるきっかけとなったプルや反応が遅れて庇われたプルに声を掛ける。
「「はいっ」」
返事を聞くと疲れたので少し休むね、と言って瞳を閉じた。
一般人がその姿を見れば死んでいると勘違いしそうな姿ではあるが、心臓は強く鼓動を奏でている。
ガルダ級に帰還すると出迎えの先頭はジャミトフがいた。
「おかえり」
静かな声だったが、心は乱れているのはこの場にニュータイプしかいない今、筒抜けである。
「あの、その、た、ただいま帰りました」
結局なんと言うか思い浮かばず、しどろもどろになってしまう。
「無事、ではないが――」
ジャミトフは負傷したプルに近寄り――
「よく帰ってきたな」
頭をポンポンと撫でて帰還を褒めた。
「…………はぃ」
プルの瞳には涙が浮かんでいた。