第四百九十五話
「重力下での戦闘訓練はやはり不十分だったか……心的外傷はともかくとして身体的外傷は治療カプセルに入れば3日もすれば腕も修復されるから問題ないが、改めて訓練内容に修正しなければな」
もっとも今回の失敗は狙っていた部分もあった。
正直、プルシリーズは多少の苦戦はあっても連戦連勝で気が緩んでいた。
気持ちはわかる。かくいう私自身もその傾向がある自覚がある。
だからこそその緩んだ士気を立て直すために厳しい任務を与えた。そして私が手助けをしては意味がないと今回は関与しないことに決めていた。例えそれによってプルシリーズが戦死することになったとしても。
そうでなければ反応が遅れた段階で触手を支配して対処して無傷で済んだ。しかし、それでは私がいつまでもプルシリーズの面倒を見続けることになる。
任せることは任せるべきだろう。
結果は1番いい結果とも言えるかもしれない。
滞りなく潜入してしまえば、慢心を正すことができず、だからと言って戦死することを望んでいたわけではないが、障害が残るほどの重症などというものは脳に損傷でも無い限り、度合いによってはそれでも治療可能であるから、最良は即死か脳を大きく損傷せずに任務に失敗することだったと言える。
おかげでプルシリーズの訓練に取り組む姿勢が変化した。
『奴はプルシリーズの中でも最弱』や『人間ごときに負けるとはプルシリーズの面汚しよ』などという蔑むような発言はなく、より一層の努力を、と励んでいる。
日頃の教育の成果だろう。
これが外部の人間なら自分達のプライドを保つために他者を貶すなどという不毛な感情が流れてくる。
ニュータイプというのは良いことばかりではないな。他者への関心が薄い私ですらその手の感情は不快に感じるのだから、ニュータイプが情緒不安定な者が多いのは納得できる。
ふむ、ニュータイプを取り込むために負の感情を感じ取りにくくする制御装置を開発してみるのもありか。
「さて、これはどうしたものかな」
手元にあるのは嘆願書だ。
書かれている内容は――
「力不足を実感したので新たな力が欲しい、と」
実験台の志願などいくらプルシリーズといえども自らしてくるとはなかなかの覚悟だ。私が感じている以上に心的外傷となっているのだろうか。
しかし、新たな力か……安定している技術は既にミソロギアの人間に実装済みだ。そうなると不安定なものや使い勝手が悪いもの、使い道が定かでないもの、安全性に欠けるものなど、本当の意味で実験台となる覚悟が必要なものばかりだが、本人が志願してきているなら仕方あるまい。新たな力を授けてやろう。