第四百九十六話
「さて、新しい腕の調子はどうだ」
「タトゥーみたいでかっこいいね!」
確かに新たな腕に走る青いラインはタトゥーに見えるな。かっこいいかは別だが。
「それは良かった。しかし、しばらくは新技術を使っているから要観察、しばらくは何をするにも許可を取るように」
「わかった」
彼女の腕には試作段階である技術、シンヴリ。
腕そのものの機能は何一つ変化していない。しかし、腕としての機能以外に新たな機能が追加された。
それは――
「このデバイスに手を当てろ」
「おおぉ、タトゥーが光った?!」
「正常に認証確認。もう離していいぞ……さて、手始めに心拍数、血圧、血液検査を行ってみるか」
デバイスに入力すると間を置かずに要求したデータはすぐに送られてきて目を通す。実数的にも、専用機器との誤差的にも正常に作動しているようだ。
「ところでこれ、シンヴリはどんなことができるの?」
「シンヴリは解析してできたサイコフレームの出来損ないで作り上げた埋込み型デバイス。恩恵そのものは多くあるが、体験したほうがいいだろう」
そう言って銃を取り出して手渡す。
「では軌道は自由に選んでいいので10回跳弾させて私の右目を狙ってみろ」
「そんなことできるわけが――えっ?!これって――」
「やってみるとわかる」
「――わかった」
今度は躊躇なく引き金を引いた。
そして放たれた弾丸は1回、2回、3回……と数を重ねて10回跳弾して、私の右目――から3cmほど右に逸れた軌道を通ったのを見て、手で掴まえておく。
「すごい!なんか勝手にどこにどの角度で撃ったらいいか頭に浮かんだよ?!」
「それがシンヴリ(ギリシャ語で助言やアドバイスの意)だ。演算補助をしてくれ、サイコミュによってニュータイプとの親和性が高くなり、自然な情報伝達を可能にしている」
これが通常の演算システムを使った場合、数字の羅列で伝えられるため常人にはとても不可能なものだ。しかも的が動くとなるとその羅列は更に変動し続けるということになるのでとても使い物にならない。
それを改善したのがサイコフレームを用いたサイコミュで、数字の羅列ではなく視覚イメージに変換して伝達することで難易度を大幅に下げることに成功した。
ただし、このシンヴリも完璧ではない。さすがに10回もの跳弾となれば腕だけでは演算しきれなかったのもあるが、その提示された視覚イメージに沿うことも慣れなければ難しく、その結果が3cmのズレである。もっとも初めての射撃でこの程度のズレで済ませたプルシリーズはさすが私の作品だと言える。
ちなみにシンヴリは土台となる技術の1つにハマーン閣下から手に入れたリユース・サイコ・デバイスが使われている。
「MSやファンネルの操作のサポートは当然として未来予測システムと連結させることでより精度が向上、生身の状態でもテンタクルの操作もサポートし、更には死角の情報を得られることができる」
「わっ、本当だ?!自分の背中が見えるよ!あ、でもなんか違和感があるような?」
「それは肉眼の情報量とシンヴリの情報量の違いだ。お前達の身体は私が調整しているのだ。たかが腕1本の演算処理能力に劣るはずがないだろう」
プルシリーズの肉眼とシンヴリとでは解像度もビットレートもフレームレートも段違いであるため違和感が生まれるのだ。
「なるほど~。あ、確かに映ってる影が荒かったり、見えるはずが見えない場所があるね。これ、なれないと気持ち悪くなりそう」
「そうだろうな」
私もこのアレン人形を使い始めた頃には違和感が酷かったものだが、それよりも酷いシンヴリの映像なのだから気持ちはわかる。
「すごく便利そうだけど……こういう機械を体内に入れると拒否反応があるって話だけどそれが原因で見送ってたの?」
「金属の拒否反応など今更起こすわけがないだろう。問題は――」
私が強く思念波を飛ばすとシンヴリは持ち主の意志を無視して子供が歩道を歩く時のように大きく上がる。
「サイコフレームは他者からも影響を受けやすくなっている。一応はセキュリティを施して常識的なニュータイプの感応なら問題ないのは立証できている。だが、ニュータイプとサイコミュが揃い、特定条件下では不安が残る」
「特定条件下……あ、あの決戦の時のMDのことね!」
「そうだ。アムロ・レイがMDにララァを降ろしたあの現象が代表例だ。もう1つ、時渡りもある。私達だけが成功例なら良かったが、アムロ・レイとシャア・アズナブルが成功している以上はどのような状況でどのような影響を受けるか」
「タイミング次第では最悪だね!」
「その通りだ」
裏切りなら事前に察知もできるし、出ていきたいというなら身体能力を常人スペックに落として門出を祝ってやってもいい。しかし、自身の意志とは関係なく、そして私が作り上げたもので操られるなど万死に値する。
「……あれ?もしかして私、しばらく戦場に出れない感じ?」
「察するのが遅いぞ」
「そんな~、せっかく汚名返上できると思ったのに~」
「貴重な実験データが取れ、未来の仲間を助けると思えばいい」
「うー……」