第四百九十七話
ハァ、シンヴリの実験や経過観察をしていると、やっと捕虜解放の段取りがついたと連絡が来た。
これで資源を無駄に食い潰されないで済む……と思っていたが、引き渡しが2ヶ月後というのは私達への挑戦状か?
万単位の捕虜に費やされる資源がどれほどになるか、今までは連邦が対話姿勢に入っていなかったから目を瞑っていたが、これからはネオ・ジオンにある程度請求することにする。ネオ・ジオンの外交努力の結果が2ヶ月後なのだからネオ・ジオンが負担するのは当然だろう。
その2ヶ月はなんの期間だ。と思い聞いてみると……なんと引き渡し会場として宇宙ステーションを建築する予定だそうだ。
そんなどうでもいい準備期間のせいで私達の資源が食われていくのはさすがに業腹(ごうはら)ものなのだが、この引き渡しをネオ・ジオンと連邦の友好の証とするため、大々的に行う運びになったようだ。
しかし、どう考えても――
「罠ね」
「罠ですね」
「罠だな」
私、ハマーン、イリアの意見は一致した。
連邦の動きは軍備拡張路線を撤回しないことがその証拠だ。
平時の軍備程度なら現在でも最低限整えられているのだから、本当に友好関係を構築するつもりなら必要以上の軍備は争いの種にしかならない。
まぁデラーズ・フリートのような前例があるのでアレルギー的に過剰反応ならぬ過剰防衛意識が芽生えている可能性もあるが――
「わざわざ宇宙ステーションを建造なんてハマーン閣下を地球からもアクシズやサイド3からも引き離す口実にしか聞こえないな。建造が連邦主導だからなおさらだ」
「当日にテロが起こる可能性もあるね。で実行犯はネオ・ジオンからの討伐」
「ニュータイプでなくても見えそうな未来です」
そんな見え透いた流れであってもネオ・ジオンに拒否権はない。
拒否した場合、友好関係は偽りだったのか、捕虜を返す気がない、など汚名ばかりを押し付けられることだろう。
さすが連邦、汚い。
「2ヶ月か……今のうちに資源回収とサイコミュの予備を量産しておくとしよう」
「それは、最悪時渡りをするってこと?」
「そうだ。ネオ・ジオンが敗北した場合、私達だけで地球圏に残っても負けはしないだろうが旨味が少ない。連邦と戦闘になった場合、長期化が予想され、資源の消費ばかりとなるだろう」
「人脈の大事さが身にしみるわね」
「しかし、時渡りを行ったとしてもそれは解消されるわけではないのでは?」
「別の世界なら新しい技術がある可能性が高いのだから資源と引き換えに得られるならそれよしだ」
「なるほど、では2ヶ月後に時渡りを行うことを前提として生まれたてのプル達の訓練内容を変更しておきます」
「私はまだしばらくアッティスに掛かり切りかなぁ」